第四章 〜近くて遠い〜
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第四章 〜近くて遠い〜
『チャン、いつもありがとう。
お金は受け取りました。大切にする。
だから、私とチャンとの繋がりを
どうか断ち切らないでほしいです。
勝手なことばかり言ってごめんなさい。
最近、町に来た海賊たちと仲良くなったの。
見た目は怖いけど、とても気のいい人たちで
チャンが海賊を嫌いじゃないと
言っていたことにも納得したよ。
彼らのおかげで、町は今平和です。』
チャンへの返事を鳩に渡し、家を出た。
この数ヶ月で、私の生活はガラリと変わった。
隣町でひとり暮らしを始めて
もうひとつ、酒屋での仕事を見つけて
海賊たちともすっかり打ち解けてしまった。
まさか、自分に海賊の友達ができるなんて。
しかもあの誰もが知る大海賊。
最初は近寄るのも怖かったけど
なぜかあの人は信用できる気がして
でもまさかチャンのことまで話してしまうなんて
自分でも少し驚いている。
と、そんなことを考えながら仕事場である
養護施設へ向かって歩いていると、本人と会った。
「よォ。」
「おはようございます。珍しいですね、朝から町にいるなんて。」
「散歩だ。」
相変わらず皆が恐れる四皇のイメージとは
かけ離れた行動に拍子抜けする。
そして、そうすることが当たり前かのように
自然と隣に並んで歩いてくるから
私は落ち着きを失いながらも、平静を装って
話題を探した。
「最近お店来ませんね。まだお金ないんですか?」
「あァそうなんだ。奢ってくれ。」
赤髪は他人事のように
はははっと笑いながらそう返す。
「私だってそんな余裕ありません。」
「毎月金をくれる奴がいるんだろ?」
「人のお金を当てにしないでください!それに彼のお金には頼らないんです!」
「硬いこと言うな。」
「奢りませんっ!」
そんなやりとりに
自分が自然と笑顔になっていることに気付く。
これほどまで自分らしくいられて
自然と話ができる相手は
あまりいないのではないだろうか。
そんなふうに思った。
あの日、迷惑客に助けられてから
確実に船長さんとの距離は縮まっている。
ずっと気になっていたことを
今なら聞けそうな気がした。
「船長さんたち、いつまでここにいるんですか?」
「そうだなァ……特に決めてはないが、近々出ようとは思ってる。」
「そうですか……」
期待どおりではなかった返事に
思わず肩を落としてしまった。
「寂しいんだろ。」
「そんなんじゃないです!」
小馬鹿にするように笑ってくる船長さんに
強がりを見せながらも
言われたことは図星だった。
寂しくないと言ったら嘘になるし
できればここに少しでも長く居てほしい
という思いが正直な気持ちだ。
「でも……」
「あ?」
「私がたまにご飯を奢ってあげたら、ずっとここにいてくれますか?」
「なんだ。やっぱり寂しいんじゃねェか。」
「そうかもしれません。」
素直にそう言って笑ってみせると
黒いマントの中から大きな手が伸びてきて
ポンポンと髪を撫でられる。
「……海賊相手に、ずっとって言うのは聞けない相談だが、まァお前んとこのメシを食えなくなるのは嫌だからな。もう少しいるかな。」
素直になってみてよかった。
少しでも長く、彼らのおかげで
治安の良い町の状態が続けば皆喜ぶし
少しでも長く、私も彼らといたい。
「店長も喜びます。」
笑ってそう言うと、船長さんも笑って頷く。
そして急に何かを感じたのか
ふいに立ち止まり、後ろを振り返った。
ギロリと鋭くなる目つきに気迫を感じ
なんとなく私も息を潜めた。
「どうかしました?」
「……いや、なんでもねェ。」
そう言いつつも後ろが気になるのか
視線だけを最後までそちらに残したまま
私の背中に手を添えて再び歩き出す。
「ミドリは気にするな。行こう。」
私は不思議に思いながらも
促されるまま歩き出した。