第三章 〜最強の用心棒〜
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「いつまでこの島にいるつもりだ。」
昼下がり。
昼寝にはもってこいな気候の下
甲板で太陽の光を浴びて目を閉じると
ベックの低い声が上から響いて
ドスンと隣に腰掛ける音がした。
「もう顔は見たろ。立派に育ってた。」
「いいじゃねェか。新世界へ戻ったってどうせ暇だ。」
「油断してると正体がバレるぜ。」
容赦なく確信を突いてくるベックの発言に
動じないフリをして、目を閉じたまま答える。
「……うまくやってる。心配するな。」
呆れたように何も言わず
フゥーっと煙を吐く音が聞こえた。
「お頭、客だぜ?」
そこへ見張りをしてたロックスターが
上がってきた。
「客?おれに?」
「町のばばァだ。あんたの顔見知りだと言い張ってんだが……追い返していいか?」
「おれの?」
心当たりはなかったが
ベックから逃げるチャンスだと立ち上がり
甲板から港を見下ろすと、ひとりの女が立っていた。
「あァ、あの人は……」
港へ降り立つ。
彼女は確かに顔見知りだった。
会ったのは…17年前か。
ミドリの叔母だと名乗り出た彼女に
3歳のミドリを引き渡したときだ。
——この子をありがとうございました。
本当にありがとうございました。
何かお礼をしたいのですが、あいにく
きちんとした物を用意できるような
身の程でなくて……
——好きでやってたことだ。気にするな。
おれたちもな
こいつには楽しませてもらったんだ。
必死で頭を下げ続ける彼女と
そんなやりとりをして別れた。
ミドリの叔母さんが
わざわざおれのところへ来たのは少し驚いたが
理由はなんとなく察しがついた。
「急にすみません。私を覚えていますか?」
「ミドリの叔母さんだな。あの時の。」
そう頷けば、彼女の強張っていた表情が
少し穏やかになった。
「はい。あなたがこの島の港町に来てると聞いて、居ても立っても居られなくて。」
「まァ、気持ちはわかる。」
「あなたが海賊だってことは知ってました。ここを出る時、船にドクロマークがあったから。でも回ってきた手配者を見て驚いたわ。どんどん大物になっていくんですもの。」
「ミドリには…黙っててくれたんだな。助かったよ。」
「あの子に会ったの?」
「あァ。立派になったな。あなたのおかげだ。」
「まさか、名乗ったりは——」
焦ったような彼女の問いに首を振ると
安堵してひとつ息を吐き、頭を下げた。
「あなたには本当に感謝してるんです。でも、勝手を言って申し訳ないけど、あの子にはこのまま正体を明かさないでほしい。まさかずっと、その……犯罪者からお金を受け取っていたと知ったらあの子は……」
「あァ、わかってる。言うつもりはない。」
「ありがとうございます。」
「もういいから。顔を上げてくれ。」
「チャンさん……あなたからの援助がなかったら、私たちはどうなっていたか。きっとあの子を学校に入れてやることもできなかった。どんなに感謝しても、し足りないわ。」
「いらねぇよ。好きでやってたことだ。2人の元気な姿を見られてよかった。そのうちこの島も出るから安心してくれ。」
最後に深く頭を下げて
叔母さんは帰って行った。
ミドリの親代わりであるあの人の行動は正しい。
おかげで改めて思い知らされた。
——どこの誰かもわからないけど
私にとってはそんなの関係ない。
——私は彼が臆病者でも何でもいいんです!
ミドリのあの言葉に
一瞬でも喜んで、舞い上がったおれは
呆れるほどにバカ野郎だった。
彼女たちからしたら
どんなに役に立つことをしていたとしても
おれはただの犯罪者だ。
ミドリが慕うチャンは犯罪者なんかじゃない。
名乗ることは許されない。
ミドリを
大事なあの子を
このおれが傷付けるわけにはいかない。