第三章 〜最強の用心棒〜
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今、私の身に不思議なことが起こってる。
あの大海賊。
四皇である赤髪のシャンクスが隣を歩いて
私を家まで送ってくれている。
「早く船に戻らなくていいんですか?」
「気にするな。誰も気にしてねェよ。海賊ってのは自由なんだ。」
見上げれば半月が空の真ん中に浮かんでいて
その周りで星々が輝いている。
いつもに増して、静かな夜に感じた。
「なぜそこまで働く。」
ふと、赤髪が質問を投げかけてきた。
「さっき店長から聞いた。養護施設でも働いてるそうだな。」
「はい。」
「別に言いたくなきゃ無理に聞かないが。」
なんとなく、船長さんになら、この人になら
話してもいいと思える。
「……大事な人がいるんです。」
「大事なヤツ?」
「私、その人のおかげで学校へ行けて、勉強もできたから、教師になれたんです。」
「……へェ。」
「出来るだけお金を貯めて、私も彼みたいに誰かの役に立ちたい。私のような孤児のために、できることをしたいんです。」
チャンのことをこんなふうに他人に話すのは
初めてで、少しドキドキした。
「それが私なりのその人への恩返しなんです。」
少し恥ずかしくて、少し緊張して
でも誰かに聞いてもらいたかった。
チャンは私の大事な人なんだって。誰かに。
「どんなヤツなんだ?お前がそこまで慕う”大事な人”ってのは。」
たいして興味もないだろうに
話の流れでそう聞いてきた赤髪の言葉に
私の心は一瞬で曇った。
「わかりません。」
「わからねェ?」
「小さい頃にしか会ったことがなくて、その時の記憶も私にはなくて……彼との繋がりも、ただ毎月彼からお金が送られてくるだけで。」
説明しながら、自分で悲しくなってきた。
側から聞いたら、変な話なのかもしれない。
どんな人かも知らない相手を
”大事な人”だなんて。
「随分慕ってんだな。会ったこともねェようなヤツを。」
赤髪は眉間に皺を寄せて不思議そうな顔をした。
きっとこれが当たり前の反応だ。
でも私には、確かな思いがある。
「大事にされてる、って思えたから。」
「………」
「どこの誰かもわからないけど、私にとってはそんなの関係ない。私のことを大事にしてくれてるから、私も彼が大切なんです。」
「……姿も現さねェ臆病もんじゃねェか。」
空を見上げて、少し呆れたようにそう呟く赤髪に
チャンのことをバカにされたようで
私はだんだんと腹が立ってくる。
「もう!船長さん全然わかってない!」
「あ?」
「私は彼が臆病者でも何でもいいんです!姿を現さないのは、きっと何か事情があるからで……それでも、私の大切な人には変わりないんです!」
声を荒げてそう言うと
赤髪は楽しそうに大声で笑い出した。
「何で笑うんですか!?」
「悪いな。何でもねェよ。」
大きな手のひらが頭に乗せられて
ぽんぽんと軽く撫でられる。
意味がわからないけど
少しムキになりすぎたかもと恥ずかしくなり
それ以上、何も言えなくなってしまった。
と、ちょうど、私のアパートが見えてくる。
「あの、うちもうあそこなんで、ここで大丈夫です。」
「おう、そうか。」
「送っていただいて、ありがとうございました。」
「気にすんな。またな。」
踵を返して、後ろ姿になった赤髪が手を振る。
その背中が見えなくなるまで見送りながら
先ほどの出来事を思い出していた。
あの瞬間
——よォ。
赤髪が来てくれたときの安堵感。
自分でも驚くほどにホッとした。
全身を穏やかな優しさで包まれたような感覚。
いつの間に私は
あの男にそこまでの信頼を寄せていたんだろう。
最強の用心棒……
本当に彼がそうなってくれたら…と
月明かりの下、密かに思った。