第三章 〜最強の用心棒〜
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それから閉店作業を終えるのに
1時間ほどかかってしまった。
あの常連さん、さすがにもういないだろうと
裏口のドアから外へ出ると
私は一気に落胆した。
「お疲れ。遅かったな。」
満面の笑みでそう言われ、恐怖すら覚える。
店長に助けてもらおうか。
でも、明日の仕込みでまだ忙しそうだった。
周りに誰かいないか見渡すけど
こんな時間に人通りなんてありはしない。
「こんな時間にひとりじゃ危ない。家まで送るよ。」
「大丈夫です。いつもひとりですから。」
「遠慮はいらないから。」
肩に回された手に背筋がゾクリとした。
やっぱり大声で店長を呼ぼう。
そう思ったとき——
「よォ。」
声をかけられて振り返れば
そこに赤髪が立っていた。
「……船長さん。」
まだ肩には隣の男の腕が回ったままなのに
その顔を見た瞬間
不思議なほどに大きな安心感に包まれる。
「仲間たちに酒を買って帰りたくなってな。店閉めたとこ悪いが、譲ってくれないか?」
「あ、はい。今正面のドア開けますね。」
「あァ、悪いな。」
「…ごめんなさい、失礼します。」
赤髪の姿に黙り込んだ男にそう告げ
腕から逃れて、店の中に戻った。
「さて、どの酒にするか…」
表の入り口から入ってきた赤髪は
顎を指でさすりながらお酒の棚を吟味している。
「……お金、ないんじゃなかったですか?」
不思議に思って私がそういうと
しまった、という表情で私を見た。
「おォ、そうだった。じゃ、また今度にするな。」
店を出る赤髪を見送りながら
私は周りに目を配った。
あの常連の男、さすがに帰っただろうか。
姿は見えないけど
また裏口の方にいるかも…
「……安心しろ。あの男なら帰った。」
「……え?」
「ひと睨みしてやったからな。」
ニッとイタズラに笑うその笑顔に
私は彼に全てを見透かされていたことに気付いた。
たまたま通りかかっただけかもしれないけど
困ってる私を助けてくれたんだ。
「ありがとうございます。助かりました。」
「変な客がいるなら、店長にちゃんと言ったほうがいい。」
「…そうですね。気を付けます。じゃあ、また。」
感謝を込めて頭を下げ、別れを告げたけど
赤髪は帰路へ着こうとはしなかった。
「……変な男だったが、言ってることは一理あったな。」
「え?」
「送っていく。」