第三章 〜最強の用心棒〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「すみません!ちょっと遅くなりました!」
「おう。ミドリちゃんお疲れさん!」
養護施設の仕事がなかなか終わらず
いつもより少し遅れて酒場へ行くと
夜の仕込みをする店長のそばで
床掃除をしている人物がいた。
「よォ。」
「あれ?船長さん!?」
どうして赤髪が?
エプロンなんて着けて
どう見ても開店準備を手伝っている。
「何してるんですか?」
「何って…いつもうまいメシと酒をご馳走になってるから、手伝おうと思ってよ。」
得意げにニッと笑う赤髪の後ろで
店長がニヤリと笑った。
「飲み代がないんだってよ。」
「あ!店長このやろう!」
「それでお店の手伝いを?」
つい私が笑い声を上げると
真実をバラされてしまい
罰が悪そうな赤髪は口を尖らせた。
「うちの船な、小遣い制なんだがよ、すっかり使い切っちまったんだ。」
次もらえるのは来月だな…なんて呟きながら
再び床にモップを滑らせる。
片腕で器用にモップを動かす姿と
ピカピカになっていく床を見て
頬が緩んだままだった。
だって、目の前の彼が
世界が恐れる大悪党とはほど遠い姿だったから。
「海賊が掃除って…あなた本当に四皇ですか?」
「うるせ。」
「ははは。ミドリちゃんの言う通りだ。海賊がまさか店を手伝ってくれるなんてな。」
「海賊がどうとか関係ねェ。おれはすっかりこの店のファンなんだ。ここのメシが食えなくなるのは嫌なんだよ。」
「船長さんはいい人だな。海賊とこんなに意気投合したのは、おれは初めてだよ。」
「おれも店長のオッサンすきだぜ。」
「それ終わったらメシ食っていけ!代金はいらねェから。な!」
「おう!ありがとう!」
結局この日赤髪は、カウンターにひとり座り
店長と何やら楽しそうに談笑しながら
閉店間際までお店に残っていた。
「ミドリちゃん、ミドリちゃん。」
「あ、いらしてたんですね。こんばんは。」
声をかけてきたのはよく店に顔を出してくれる
比較的若い常連さん。
常連さんと言っても名前も知らない人なんだけど
以前からこうやって声をかけられては
食事やデートに誘われていた。
今日も彼が来ていることに気付いていながらも
なるべく関わらないように、と
近寄ることを避けていたのだが
彼の方から来てしまったので仕方なく対応する。
「もう仕事上がりだろ?」
「えーっと…お店閉めた後にまだやることがあるので……」
「じゃあ外で待ってるよ。飯でも一緒にどう?」
「ごめんなさい。明日も朝早いので。」
いつもはこのくらい言えば
引き下がってくれるのだが
なぜか今日は諦める気配がなかった。
「少しくらいいいだろ?外で待ってるから。」
「え、でも何時になるか…」
「平気だよ。」
そう言って食事代を払うと
私の話を聞くこともそこそこに
彼は店の外へ出てしまった。
困ったことになった…
内心頭を抱えながら
彼から渡された代金をしまっていると
赤髪が目の前を通り過ぎる。
「ごちそうさん。」
「あ、船長さん。今日はお手伝いありがとうございました。」
「おれこそご馳走になっちまって。金もらったらまた来るな。」
「はい。」
冴えない表情をしてしまっていたかもしれない。
それを悟られないよう笑顔を作って見送った。