第二章 〜現れた大海賊〜
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「帰りたくねェ!?」
「何言ってんだ、お頭!」
店を出た所で、おれは幹部達から大笑いされた。
まァ、いつものことだ。
「いい夜だ。まだ船に帰る気分になれねェ。」
「駄々こねてんじゃねェ。」
「おれらは帰るぞ。もう眠い。」
「おう、勝手にしろ。じゃあな。」
誰ひとり、付き合おうというヤツはおらず
ひとりになったおれは
二軒目に向かうことはなく
ミドリの店の横に腰を下ろす。
静かな夜更けに身を任せた。
気分が良い。
長年の淡い夢が叶ったような
肩の荷が降りたような、心底安心したような。
おれが大事にしてきたものは
知らぬ間にあんなにも立派に成長していた。
ほどよく酒も回り、このまま眠ってしまえば
いい夢を見られそうだ。
襲ってくる眠気に逆らうことなく
目を閉じたところで、足に何かがぶつかった。
が、そんなことは気にもならないくらい
ふわふわとしたいい気分だった。
「船長さん、大丈夫ですか?」
ふいに投げかけられた声に、重い瞼を開くと
目の前にミドリがいて
本当に都合の良い夢を見てるんだと思った。
でもそれは夢でなく現実で
おれを心配したミドリが隣に座った。
おれのことを信用していないはずなのに
どうして隣に来てくれたのかはわからないが
ずっと遠くに在った大切なものが
今はすぐに手の届く場所にいる
その現実に胸が熱くなった。
他愛もない会話も
すごく有意義なことのように思える。
少し話をしただけでわかった。
ミドリは賢く、自分の考えに正直な
素直でいい女になった。
このまま色々と話をしたくなったところで
ふと、冷静になる。
おれの正体は、バレるわけにはいかない。
——世話になった相手が海賊だと知ったら
あいつはどう思うか
ベックの意見はもっともだ。
正体がバレれば
傷付くのは目の前のこの子だろう。
もう、一人前に生きている姿は見られた。
ヘマやらかさないうちに、この島は去るべきだ。
満足しただろう。
これ以上、関わるわけにはいかない。
正直、名残惜しさはあったが
ミドリに家に帰るよう促した。
するとミドリは
店の中からブランケットを持ってきて
おれの体にかけていった。
彼女の優しさが、身に染みた。
「それじゃ、おやすみなさい。」
「おう。またな、ミドリ。」
……またな?
無意識に出た言葉だ。
おれはまた、会うつもりなのか?
また……
そうだな、会いたい。
あァ、そうだ。全然足りねェ。
「……ヤベェなァ……」
ブランケットに顔を埋めたまま自嘲する。
欲が顔を出した。
ガキの頃から変わらない、あの笑顔を
できることなら、おれはもっと欲しい。