第二章 〜現れた大海賊〜
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「お疲れ様でした!」
一時はどうなるかと思ったけど
赤髪たちが機嫌良く帰ってくれてよかった。
心から安心し、裏口から店を出て
歩き出そうとしたところで何かにつまづき
転びそうになる。
「わっ!な、なに…?」
振り返ると、暗くてよく見えないが、人のようだ。
店の壁にもたれかかるように座り込んでいる。
私がつまづいたのは
その人が前に投げ出した足だった。
具合でも悪いのだろうか。
「あの……」
声をかけようとして、顔を覗き込んだところで
さらに驚いた。
その人があの赤髪だったから。
「えっと、船長さん?大丈夫ですか?」
「ん……」
眠っていたのか、虚ろげに目を開け
私を見上げるとニヤリと笑う。
「おう、全然大丈夫だ。」
この状況でそう言われても全く説得力がない。
でも、とりあえず
ちゃんと受け答えしてくれたことに安心し
隣に腰掛けた。
まだ完全に信用したわけではないけれど
酔っ払っている人を
このまま放置していくわけにはいかない。
「仲間の皆さんは?」
「置いてかれた。」
「置いて、って…えぇっ!?ふふっ」
意外な答えに、思わず吹き出してしまった。
「そんなにおかしいか。」
やばい、失礼だったかも。
「ご、ごめんなさい。まさか船長さんを置いていくなんて。」
「薄情なヤツらだろ。」
そう言って口の端を上げてフッと笑う。
私に笑われても、赤髪は怒らなかった。
それがなんだか意外で
思わず彼を見つめてしまう。
「……なァお前、おれ達のことを警戒してたろう。」
「えっ…」
不意に本心を突かれてドキッとする。
ギロリと鋭い視線を向けられ
やっぱり怖い人なのかも、と急に身体が強張った。
変に嘘をついても見抜かれそうなので
私は正直に答える。
「……ごめんなさい。少しだけ。」
「いいんだ。それでいい。」
納得するように、彼は頷いた。
「初対面の男たち、まして海賊相手だ。警戒しない方がおかしい。」
「ごめんなさい。四皇だって聞いたし…最初はすごく悪い人たちなんだと……」
「はははっ。正直でいいな。今はどうだ。」
「まだ少し…完全には信用していません。」
「だろうな。」
「あ、でもお客さん達喜んでたし、たくさん注文もしていただいたので、感謝はしています。」
すごく失礼なことを言っているかもしれない。
でもこの人はそのくらいのことで
こんな小娘に腹を立てるような人間じゃない、と
なんとなく彼の懐の大きさが
わかってきたような気がして
少し緊張しながらも、私は本音を話した。
思った通り、赤髪は怒ることはなく
代わりに大きな手で私の頭を一度だけ
クシャっと撫でた。
「もう遅い。さっさと帰れ。」
私の相手が面倒になったのか
そう言って俯いたまま、表情は見えない。
具合が悪いわけでもなさそうだし
これ以上、長居する理由もなかったので
私は立ち上がった。
一度店の控え室に戻り
仮眠する店員のために置いてある
大きめのブランケットを手に取り、外へ出た。
尚も俯いたまま座り込んでいる赤髪に
それをふわりとかけてあげれば
何ごとか、と顔が上がり、目と目が合う。
「あの、まだ夜は少し冷えるから。帰る時、その辺にかけておいてください。」
「……ありがとう。」
「それじゃ、おやすみなさい。」
「おう。またな、ミドリ。」
ブランケットから出した手を挙げてそう言う彼に
軽く会釈をして、その場を離れた。
と、ひとつ違和感を覚える。
彼はどうして、私の名前……
私、名乗ったっけ?
記憶を辿ろうとしたところであくびが漏れ
急に襲ってくる眠気に
考える力はなくなってしまい
きっと店長や他の店員が私を呼ぶのを
聞いていたんだろう。
そういう解釈にいきついた。
刺激的な一日だった。
結局、あの人が善であるか悪であるかは
わからなかったけど
今までに感じたことのない何かを感じた。
今日のことを、チャンに話したい。
こんな海賊と出会ったよ、って。
早く手紙が来ないかな。