アネモネの恋 〜あなたを信じて待つ〜/ロシナンテ
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「いらっしゃいませ。」
来店を告げるベルが鳴って
お客さんを迎えると
そこにはひとりの青年が立っていた。
私はなんとなくその姿に
初めてこのお店に来た時のロシーを重ねる。
「アネモネという花を探してる。」
その青年はぶっきらぼうにそう言った。
「アネモネはここです。今あるのは赤と、ピンクと……」
「赤を全部、花束にしてくれ。」
「え……」
その言葉にドキッとして、つい動きが止まる。
「花束…に……」
「それ全部だ。」
「あ、はい。少々お待ちくださいね。」
茎の長さを揃え、透明フィルムを巻き
少し悩んで、淡いピンクの包装紙を選んだ。
あの時と同じ。
赤いアネモネの花束。
用意している間、ずっと胸がドキドキしていた。
初めて会った青年が
ロシーと全く同じものを買っていくなんて。
これは偶然?
「お待たせしました。」
彼はお金を払い、花束を受け取ると
それをまた、私に差し出した。
「これは、あんたがもらってくれ。」
「え……?」
「コラさん……いや、コラソンからだ。」
それを聞いて、ハッとした。
コラソン。
それは、一度だけあなたが私に名乗った名前。
「………ロシー?」
「あんたには本名を言ってたのか。」
言葉が出なかった。
14年も経って、どうして今さら……
そして、この青年は……
「コラさんはこの島を出た後、必ずあんたの所に戻って、この赤いアネモネの花束を渡すんだって口癖のように言ってた。約束したんだと。」
「……あなた、まさか……」
深く被る帽子を覗き込むと
彼の瞳が揺れていた。
そして勢いよく、私に向かって頭を下げる。
「コラさんは死んだ。おれのせいだ。あんたには、辛い思いをさせた。」
その言葉で確信した。
この子が、ロシーの助けたがっていた子。
そしてロシーは
この子を救って、命を落とした。
頬を涙が伝った。
でも決して、悲しいだけの涙じゃない。
ロシー。
あなたは、ちゃんと願いを叶えてた。
志半ばで命を落としたわけじゃない。
それがとても嬉しかったんだ。
「ここへ来るべきか迷ったが、あんたがまだコラさんを待ってるんじゃないかと。」
尚も頭を下げ続ける彼の肩に手を置く。
「来てくれてありがとう。」
顔を覗いて笑顔を向けると
彼は顔を上げて、少し照れ臭そうに目を逸らした。
「あなた、名前は?」
「ロー。」
「ロー。あなたが、元気になってよかった。」
「あァ。コラさんが守ってくれた。あの人はおれの恩人だ。」
「私もあなたも、ロシーに愛された幸せ者ね。」
「……そうだな。」
最後に一度だけ笑ってくれた
ローの背中を見送りながら外へ出る。
暖かな春の陽気に包まれて
とても清々しい気分だった。
空を見上げる。
ねぇロシー。
あなたもどこかで見てるかな。
あなたが助けた子は
あんなに立派な青年になったよ。
きっと空の上で喜んでるね。
私も嬉しい。
あなたの願いは叶っていたから。
その美しい命が終わるとき
少しでも、私のことを思い出してくれたかな。
私は大丈夫だよ。
毎年店先に並ぶアネモネの花を見て
あなたの笑顔を思い出す。
あなたを思えば、強く生きていける。
私は今も、これからもずっと
あなたに恋をしている。
…fin