アネモネの恋 〜あなたを信じて待つ〜/ロシナンテ
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「………帰らないの?」
タバコに火をつける音で目が覚めたのか
隣で眠っていたミドリが
乱れた髪と服を直しながら起き上がる。
とっくに日付けが変わっている時間だ。
「……今夜はこのまま泊まってもいいか?」
そう言うと、ミドリは隣に座り
おれのシャツの裾を掴む。
「……どうして?」
「……そばにいたい。」
「いつもは、私が寝てる間に帰るじゃん。」
「………」
「いつもは、朝からデートなんてしないじゃん……」
ミドリは、何かに気付いていた。
「いつもと一緒じゃないと、不安になる。」
おれの腕に自分の腕を絡めて
甘えるように肩に頭を預けた。
「……私の前から、いなくなるの?」
かすれた声になったミドリの手を取り
一本一本指を絡める。
「………助けてやりたい子どもがいるんだ。」
「………」
「そいつは病気で、余命あとわずかで。この島にいても助からない。」
腕にぴたりと寄り添う体が震えていた。
おれはまた、この愛しい恋人を泣かせている。
「そいつを連れて海へ……出ようと思う。いつ帰ってくるかはわからない。」
「……そっか。わかった。」
声を震わせて、俯いたまま
ミドリは平気なフリをしていた。
「……無理しなくていい。」
「無理なんかしてないよ。ロシーの願いを諦めてほしくないの。」
尚も強がるミドリに
おれは向き直って、真っ直ぐに彼女を見つめる。
「物分かりのいい恋人のフリなんてするな。」
「………」
「いつも辛い思いばかりさせて、最低な男だと罵っていいんだ。」
「……うぅっ…」
ポロっと、ミドリの瞳から涙が溢れた。
「全て受け止める。本音を聞かせてくれ。」
指で何度拭っても
またすぐに溢れてくるミドリの涙。
たまらずおれは、彼女を抱き締めた。
胸に抱いたミドリが
ポツリポツリと静かに話し始める。
「……本当は、その子の治療なんて、医者に任せればいいのにと思ってる。どうしてロシーが?って。」
「あァ。」
「私との時間よりも、その子を優先することにも、腹が立つ。」
「あァ。」
「海賊への潜入捜査も、海軍もやめて、私とここで暮らせばいいのにって、ずっと思ってた。」
「あァ。」
「……私、あなたを独り占めしたいの。」
「あァ。嬉しいよ。」
「嘘だよ!最低でしょ!?自分のことしか考えてない!」
「それだけおれを思ってくれてるってことだ。」
頬に手を添えて顔を覗き込み、笑顔を作る。
「この上なく幸せだ。」
ミドリは拗ねたように頬を膨らませた。
「……いつ行くの?」
「夜が明けたら。」
「……泊まっていって。」
観念したミドリがそう言ってくれたので
おれは優しく彼女に口付けた。
「約束する。必ず帰ってきて、またあの赤い花を君に贈る。」
どんなに時間が経ったって
変わらぬ思いで、君を愛す。