アネモネの恋 〜君を愛す〜/ロシナンテ
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知りたいと想う気持ちと
知らないほうがいいのかも、と想う気持ちが
私の中で葛藤している。
お店のドアが開いて、ロシーが入ってくる。
会うのは食事をした時以来だった。
「こんにちは。この間はありがとうございました。楽しかった。」
優しい笑顔で微笑んでくれた。
あなたが何者でもかまわない。
その笑顔を見ると、そんな気持ちになる。
ふとロシーが目の前の花に目を向けた。
「アネモネです。今朝仕入れたばかりで。綺麗でしょ?今は赤しかないけど、ピンクとか青とか、色々あって可愛いんですよ。この花、私大好きなんです。」
私は1本手に取って、彼に見せる。
「赤いアネモネの花言葉は『君を愛す』。なんだか真っ直ぐで素敵じゃないですか?」
いつものように静かに私の話を聞くロシーに
少し語りすぎたかも、と恥ずかしくなり
手に持っていた花をバケツに戻した。
花のことになると、つい長舌になってしまう。
「えっと…何にしますか?」
そう聞くとロシーはアネモネを指さし
メモを出した。
『はなたばにしてくれ』
「これ全部?」
彼は頷いた。
いつもは2、3本しか買わないロシーが
花束を注文したのは初めてで、少し意外だった。
長さを揃えて束ね、透明フィルムを巻いた上から
淡いピンクの紙で巻いて、リボンを結ぶ。
我ながら綺麗な束になった。
「お待たせしました。」
誰かに贈るんだろうか…と
胸がチクンと傷んだことには気付かないフリをし
笑顔でお金を受け取って、花をロシーに渡す。
ロシーは出来上がったその花束を
しばらく見つめたかと思うと
私を見たり、目を泳がせたり、頭を掻いたり
何やら挙動不審。
——と、来客を告げるベルが鳴り
ロシーは慌てて店を出た。
「ありがとうございました!」
私はロシーの背中を見送り
やってきたお客さんの対応に向かった。
その日の閉店時間。
外に出している花を中にしまおうと店の外に出ると
向かいのビルの下、ロシーが立っていた。
私が初めて彼を見かけたときと同じ場所だった。
手には先ほど渡した花束。
「ロシー?」
花束が気に入らなかったのかと不安になり
声をかけると、ロシーはこちらにやってきて
花束を私の目の前に差し出した。
「あの…ピンクの紙じゃ嫌でした?包み直しますね。」
花束を受け取りながらそう言うと
彼は横に首を振る。
ロシーが何をしたいのかが、わからない。
「リボンの色?」
また、首を横に振る。
どこがいけなかったのだろう、と
花束を確認していると、一枚のメモを出された。
『ミドリに わたしたかった』
心臓が跳ね上がる。