アネモネの恋 〜君を愛す〜/ロシナンテ
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会えた……
無言で目の前の男を
睨み付けるように見下ろしている。
「ミドリちゃんの知り合い?」
「えっと…はい。」
「そう。じゃあ俺は帰ろうかな。」
よっぽど怖かったのか
男は引きつった笑顔を見せて帰って行った。
あの大きな体に奇抜なメイク。
私は見慣れたけど、初めて会う人は
確かに怖いだろう。
結果的に助けられてしまった。
「ありがとうございました。」
2人になったところで、深々と頭を下げると
彼は笑って顔を横に振った。
「助かりました。あの人、ご飯行こうってしつこかったから。」
一週間ぶりに会えた。
嬉しい。
何か話したいな。
名前くらい、聞いてもいいだろうか。
「あ、お花買いに来たんですよね?まだ大丈夫ですよ。」
片付けようとしていた花の入ったバケツを
戻そうと持ち上げると
彼は私の手を制して一枚のメモを見せる。
『おれとは?』
「……え?」
メモの意味がわからなくて首を傾げると
もう一枚。
『メシ』
「…めし?」
『いってくれるか?』
3枚目の紙を見せられて
やっと彼の言いたいことを理解し
同時に顔が熱くなる。
「い、今からですか?」
頷く彼。
まさか、夕食に誘われるなんて。
「あ…じゃあ、これだけ片付けちゃうから待っててください。」
残りのバケツを片付けると
彼は嬉しそうにしながら手伝ってくれた。
二つ返事でOKをした自分が意外だった。
常連のお客さんといっても、相手は海賊。
もっと慎重に考えたほうが良かっただろうか。
でも、この人なら大丈夫。
この人のことはわからないことだらけだけど
不思議とそう思える。
外で待っててもらい、店を閉め
出かける準備をしながら
胸が高鳴り、ドキドキしていた。
男の人と2人でレストランに入るのなんて
生まれて初めてだ。
筆談で話を聞くのも新鮮だった。
『ミドリってよんでいい?』
「はい。え、どうして名前…」
『さっきのヤツが そうよんでるのがきこえた』
「そっか。そうですよね。私も、聞いてもいいですか?名前。」
そう言うと、彼は頷いて
自分の名前を一文字ずつ
コ ラ ソ ン
紙にそう書いた。
「コラソン、さん?」
すると一瞬彼の手が止まり
すぐにぐちゃぐちゃとその文字を塗り潰す。
「えっ、あの…」
どうしたというのだろう。
次に彼が書いて見せたのは、全く違う名前だった。
『ロシナンテ』
「ロシナンテさん。」
『ロシーでいい』
「ロシー。」
ニッと笑ってくれた。
名前を呼ぶだけで、距離が縮まった気がする。
年は25歳だと言っていた。
私より5歳年上だ。
食事をしながら色々な話をした。
でも、彼が何でも楽しそうに聞いてくれるから
私は自分のことばかりで
結局彼のことは
名前と年齢くらいしかわからなかった。
本当に海賊なのか、聞けないまま。