アネモネの恋 〜君を愛す〜/ロシナンテ
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椅子に座ってもらい、彼の正面に立つ。
背の高い彼は、座るとちょうど
立っている私と同じくらいの目線になった。
それは今までの客と店員の距離とは違い
こんなふうに面と向かうのは初めてで
顔と顔が近く、すごく緊張した。
ティッシュじゃ拭いきれなかった顔の血を
濡らしたタオルで拭き取る。
それはもうメイクなのか彼の血なのかわからなく
顔を拭いているうちに彼の素顔が見えてきた。
「あ、ごめんなさい。メイク、落ちちゃいそうです。」
この奇抜なメイク。
きっとこだわりがあるんだろう、と恐る恐る謝ると
意外にも彼は特に気にしていない様子で頷き
私の手からタオルを受け取って
自分でガシガシと顔全体を拭き始めた。
そして、タオルの下から現れた素顔。
整った綺麗な顔つきに、優しい瞳をしていて
一瞬目を奪われた。
「……あ、もう血は止まってるので、絆創膏だけ貼っておきますね。」
幸い、流れた血の量ほど傷口は大きくなかった。
大きめの絆創膏を傷口に貼って処置を終えると
彼は笑顔を見せ
『ありがとう』
そう書いた紙を出してくれた。
「どういたしまして。」
初めての笑顔に目を見られなくなり
それを誤魔化すように視線を下げ
余った絆創膏と消毒液を救急箱にしまう。
——と
彼の手が伸びてきて、頬に触れた。
驚いて顔を上げる。
交差する視線と視線。
やっぱりすごく優しい瞳。
何を言うでもなく
頬に手を添えたまま、私を見つめる。
どうしたらいいのかわからなくて
見つめ返すことしかできない。
「……お、お花!お花買いに来てくれたんですよね?」
耐えられなくなり、必死になって話題を振ると
彼はコクリと頷く。
「じゃあ、お店に戻りましょう。」
そう言いながら、救急箱を片付けるため
彼のそばを離れる。
彼は立ち上がり
脱いでいたあのフェザーコートを羽織っていた。
何、今の。
ドキドキする。
彼は海賊で、おかしなメイクと格好で、喋らない。
すごく不思議な人。
名前もわからない人。
でも、彼のことをもっと知りたいと
思い始めた自分がいる。