この男、恋愛下手につき/ドレーク
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そう、ドレークと私が恋人になって今日で1年になるというのに、彼から私に触れてくることは一向にない。
街を2人で歩くとき、手を繋ぐのは必ず私から。
「手、繋いでいい?」
「あァ。」
そうして差し出された彼の大きな手を握れば
ドレークの手は途端に力が入り、鋼鉄のように硬くなって動かない。私はただそれを握っているだけ。
指を絡める、握り返される、なんてことは皆無。
試しに腕を組んだこともあるけど、やっぱり腕も鋼鉄のように硬くなるから、私は鉄の棒を持たされているのか?と勘違いしそうになったこともある。
手が触れるだけでもそんな感じだから
抱き締め合う、という恋人同士なら当たり前にしていることを、私たちはまだ知らない。
彼の大きな体に抱き付くのも、やっぱりいつも私からで、この背中に彼の手が回されたことが一度もないから。
「小さなお前の体を潰してしまいそうで怖いんだ。」
いつしかそんな言い訳をしていたっけ。
私からの一方的なものではあるけど、スキンシップも増えたし、恋人になる前よりは特別な関係になれた実感が持てたので満足していた。
恋愛下手なところも彼らしい、と愛しく想う。
でも、もう1年。
いい加減、キスのひとつも欲しいところだ。
ーーーーーーー
私たちを乗せたリベラルハインド号は
数日前からある島に停泊していた。
いつもドレークが船長室で日誌を書いている時間。
記念日だし、今夜は街で食事をしようと誘うため
コーヒーを差し入れながら、彼の部屋を訪れた。
「ドレーク、コーヒー淹れたよ。」
「あァ、ありがとう。」
テーブルにコーヒーを置いて
いつもなら邪魔をしないようにすぐに立ち去るところだけど、今日は彼の隣に寄り添う。
背の高いドレークは椅子に座っていると
立っている私と同じくらいの視線の高さになる。
「ドレーク知ってる?私たち、恋人になって今日でちょうど1年だよ。」
少し期待も込めて、目線を合わせてそう微笑めば
あっけらかんとした返事が返ってきた。
「そうか。これからもよろしく頼む。」
なんとも事務的な挨拶程度の返事に
私は口を尖らせる。
「いい歳した男女が、交際1年も経つのにキスもしてないってどうなの?」
「キっ、なっ…何を言い出すんだ。」
少し意地悪な私の物言いに、案の定ドレークは慌てふためき、持っていたペンを床に落とした。
手を繋ぐのも、抱き付くのも、私からでいいから
キスくらいは彼の方からしてほしい。
ずっとそう考えてた。
そしたらきっと、ドレークも私をちゃんと好きだと
安心できる気がするから。
「して?」
1年前に告白した時のように、半ば強引ではあるけど
また一歩前に進めるなら、と
そっと目を閉じた。
「お、おい、ミドリ……はァ、参ったな……」
ドレークの困った声が聞こえても構わず目を閉じていると、彼の両手が私の肩に置かれた。
「悪いな。今、忙しいんだ。」
そのままそっと肩を押され、一歩後へ下げられる。
目を開けると、机に向かうドレークの後ろ姿。
私の中の何かがプツン、と切れる音がした。
「もうドレークなんかいい!何もしてくれないなら浮気してやるから!!」
言い放って逃げるように彼の部屋を飛び出した。
「ミドリ!」
後ろから私を呼ぶ声が聞こえたけど
振り返りもせずに廊下を走り抜ける。