第二章 〜焦がれる〜
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音の鳴らない恋の行方 第ニ章 〜焦がれる〜
早速たしぎさんは私を部屋へ案内してくれた。
海軍基地の中にある女子寮。
たしぎさんのような数少ない女性隊員の他に
基地で働く女性が何人か暮らしているようだ。
「ここは女性が少ないから部屋はたくさん空いているの。」
たしぎさんが苦笑いしながらそう言っていた。
早速、生活に必要な服や日用品など
必要最低限のものを家から持ってきた。
小さい頃に母が作ってくれたクマのぬいぐるみ。
唯一の母の形見。
ずっとひとりぼっちだった私のそばにいてくれた
一番大切なもの。
それを机の上に置いたところで
簡単な私の引っ越し作業は終わった。
ちょうどそこへ
たしぎさんが嬉しそうに部屋へやってきた。
「ミドリ。給仕の仕事はどうですか?食堂が今、人手不足みたいで。」
私は笑顔で頷いた。
レストランで働いた経験はあるけど
料理はそこまで得意ではない。
でも働かせてもらえるなら何だって喜んでやる。
その日から、早速給仕の仕事が始まった。
最初は皿洗いや掃除などの雑用に始まり
数日経って慣れてくると、食材の仕込みなども
任せてもらえるようになった。
男の人が多い中での仕事。
なるべく迷惑をかけないように、自分なりに精一杯頑張っている。
最初は皆、喋ることのできない私に
戸惑いを見せていたけど、話ができなくても
仕事への支障は特になく、すぐに慣れてくれた。
お昼時、食堂にはお腹を空かせた兵士達が
ひっきりなしにやってきて
彼らの空腹を満たすため、皆忙しく働いている。
「誰か、大佐を見たか?」
「昨日も今日も来てません。また昼食取らない気ですかね?」
「煙草ばかりじゃダメだって言ってるんだけどなァ。」
ふいにスモーカーさんの名前が上がって
聞き耳を立てる。
私がここで働くようになってから
たしぎさんは何度か食事に現れたが
スモーカーさんの姿を見ないことは
私も気になっていた。
何より、会いたい。
料理長が多めに盛ったひとり分の食事を
トレイに並べ始める。
私がそれを不思議な目で見ていると
「これか?スモーカー大佐は仕事が溜まってると食事を抜くことが多いんだ。まぁ任務中は外で食べることもあるみたいなんだが、今日は部屋にいるみたいだから、届けようと思ってな。」
スモーカーさんの部屋へ!
もしかして、会いに行くチャンスかも!
「でもあの人怖いし、皆持って行きたがらなくて困るんだよな。」
困ったように笑う料理長に向かって
私は迷うことなく手を挙げた。
「なんだミドリ、持っていってくれるのか?」
笑顔で頷く。
「助かるよ。実はおれもあの人怖くてさ。」
料理長は苦笑いしながらトレイを私に手渡す。
「もしも、いらねェ!って怒られたらすぐ戻っておいで。仕事の邪魔すると機嫌悪いから。」
……そんなに見た目ほど怖い人じゃないんだけどな。
私は料理長の言葉を不思議に思いながらも
料理を持ってスモーカーさんの部屋へ向かった。