第一章 〜始まる〜
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もっと話をしたい。
メモを開くけど
これまで人とろくに関わってこなかった私は
どんなことを話せばいいのかわからなかった。
と、スモーカーさんは目線の先に何かを見つけ
面倒臭そうな表情でため息を吐いて頭を掻く。
「見つかっちまった。」
そう呟いたので、その視線の先を見ると
怒った顔のたしぎさんが走って近付いてきた。
「スモーカーさん!またこんな所でサボって!」
「うるせェな。」
「ミドリ、もう外へ出られるんですね!ほんと、元気になってよかった。」
たしぎさんは怒っている表情から一転して
私に笑顔を向け、私も笑顔で頷くと
また厳しい表情をスモーカーさんへと向けた。
「ほら、スモーカーさんはまだ仕事がたっぷり残ってるんですから!」
「葉巻ぐらいゆっくり吸わせろ。」
「いつも吸ってるじゃないですか!」
スモーカーさんは、たしぎさんに促されるまま
仕方なく立ち上がる。
その時、私に小さく耳打ちをした。
「な?余計なことしか言わねェだろ。」
はてなマークを浮かべるたしぎさんを見て
私は思わず笑ってしまった。
「じゃあね、ミドリ。お大事に!」
手を振ってくれるたしぎさんに手を振り返すと
スモーカーさんも手を挙げてくれた。
私は、見えなくなる後ろ姿を目で追って
胸が高鳴っていた。
もっと話していたかったな。
次に会えたら何を話すか、ちゃんと考えておこう。
スモーカーさんのこと、もっと知りたい。
海軍の偉い人だし、ここの基地長だし
忙しい人だけど、仲良くなれたりするんだろうか。
おこがましいかもしれないけど、私のことも
少しでも気に入ってくれたら嬉しい。
私はこの日眠るまで
スモーカーさんのことばかりを考えていた。
ーーーーーーー
次の日。
「うん。問題ない。今日退院していいよ。」
朝の検査をしてくれたお医者さんにそう言われ
喜ぶべきことなのに私はひどく落ち込んだ。
『ありがとうございます お世話になりました』
そう書いて見せると、その先生はにっこりと
微笑んでくれた。
まとめる荷物もない。
迎えに来る家族もいない。
家はあるけどあんな場所、帰りたくもない。
何の思い入れもないし、辛かった記憶が蘇るだけ。
今日も中庭へ行ってみたら、もしかしたら
スモーカーさんとまた会えるかも、なんて
期待していたのに。
話したいこと、たくさん考えておいたのに。
まさかこんなにすぐ退院することになるなんて。
でも元気なのにいつまでも
ここにいられないこともわかっているし
これ以上皆さんに迷惑もかけられない。
私は重い足取りで、病室を後にした。