第一章 〜始まる〜
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海軍基地に入院して、3日が経った。
病室内にある鏡を覗き、笑顔を作る。
ぐっすりと眠れているし
栄養のある食事も食べさせてもらえているからか
今までにないくらい、顔色がいい。
お医者さんは皆優しいし、たしぎさんも
必ず一日一回は様子を見に来てくれて
私は穏やかな入院生活を送れていた。
できればずっとここに居たいくらいだ。
でももう元気になってきたし
近々家に帰されてしまうんだろう。
正直、帰りたくない。
医療棟からつながる中庭には
自由に出ていいと言われていたので
気分転換に散歩してみることにした。
中庭に出ると端の方のベンチに人影が見えた。
スモーカーさんだ。
休憩中のようで、スモーカーさんも私に気が付き
軽く手を挙げてくれたので、頭を下げた。
「ミドリっつったか。随分顔色が良くなったな。」
笑顔で頷く。
名前を覚えていてくれたことが嬉しかった。
少し迷ったけど、隣に腰掛けメモを開く。
「煙てェぞ。」
スモーカーさんは口に咥えている葉巻に視線を向けた。
『気にしない』
メモにそう書いて笑顔を見せると
そうか、と言いながらフーっと煙を吐いた。
と、つい隣に座ってしまったけど
何を話したらいいのかわからず
ペンを持ったまま固まる私。
見兼ねたように、スモーカーさんが話をしてくれた。
「声が出ねェってのはどうだ?不便か?」
そんなことをストレートに聞いてくる人は
初めてだった。
でも不思議と嫌な感じはしない。
スモーカーさんは変に気を遣ってこないので
私も素直に答えられる。
『不便だけど そんなに喋りたいこともないし
喋りたい人もいなかった』
我ながらなんてつまらない人間だろうと思う。
でもそれを読んだスモーカーさんは
フッと少しだけ笑った。
こんなに怖い顔なのに、笑うこともあるんだ。
「ろくな育ち方してねェみたいだが、綺麗な字を書くじゃねェか。」
メモの内容はつまらないものなのに
急に褒められて不意をつかれる。
字を褒められたのは初めてだ。
いや、これまでの人生で誰かに何かを
褒められるなんてこと、あっただろうか。
呆気に取られる私をよそに
スモーカーさんは話を続ける。
「世の中、余計なことしか言わねェ馬鹿ばっかりだ。そいつらといるよりはミドリ、お前といる方が楽かもしれねェな。」
……いいな、この人。
そう思った。
大きな体で、顔は怖いけど
スモーカーさんの今の言葉で
喋れないことへのコンプレックスが壊された。