最終章 〜奏でる〜
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「……いたのか。」
さほど驚く様子もなくそう呟くと
大きな手が伸びてきて、髪を撫でられる。
『起こしてごめんなさい
また後で来ます』
気持ちよさそうに寝ていたのに
起こしてしまった申し訳なさから
慌ててメモを見せて頭を下げる。
ドアの方へ向きを変えたところで
手首を掴まれた。
「ここにいろ。」
そのまま引き寄せられて
スモーカーさんに背を向ける形で
ベッドの淵に座らされる。
スモーカーさんは枕の下に手を入れると
何かを握って、それを私に手渡した。
クシャクシャになった紙だった。
泥が付いていたり、血が滲んでいる箇所もある。
恐る恐るそれを開くと
『待ってます
必ず帰ってきてください』
それは、スモーカーさんが基地を出る前
私が最後に渡したメモだった。
「なぜかわからねェが、それをずっと持ってた。」
するりとスモーカーさんの手が
私のお腹に回され、体が強張る。
「お前といると」
静かに話し始めたスモーカーさんの声が
背中側から聞こえる。
「自分の立場とか、忘れちまいそうになる。」
太ももの上、お腹の前にあるスモーカーさんの手が
熱くて大きくて
無性にドキドキした。
「お前はおれといると安心すると言ってたが……多分、おれも同じだ。」
スモーカーさんの言葉ひとつひとつが
しっかりと耳を通って頭の中に入ってきて
「今回の任務でな、死ぬかもしれねェと思ったとき、お前の顔が浮かんだ。」
夢なんじゃないかと思うほど嬉しい言葉に
心が震えた。
「ずっとな、不思議だった。なぜおれなんだと。でも今は……お前の想う相手がおれでよかったと思う。」
顔だけでそっと振り返ると
真っ直ぐに見つめられていた。
「こんな男やめておけ、とおれはお前にそう言ったが……取り消すわけにはいかねェか。」
鼻の奥がツンとなって
「こんな男だが、お前が必要だ。ミドリ。」
その言葉に涙が溢れた。