最終章 〜奏でる〜
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「いつまでこんなメシを食わせる気だ。」
医療班の先生から
絶対安静を言い渡されたスモーカーさんは
自室での生活を強いられていた。
私は毎日そこへ食事を運んだ。
後から詳しく話を聞くと
どうやら生死を彷徨うほどの大怪我だったらしく
生きているのが不思議だったそう。
胃の損傷も激しく、まだ病人食しか与えられないスモーカーさんは、不満そうにそれを口にかき込んでいた。
『元気になるまで我慢してください』
機嫌の悪いスモーカーさんを前に
私は笑みが溢れる。
命を取り留めて
目の前に帰ってきてくれたことが
こんなふうにまた2人で過ごす時間を持てることが
何よりも嬉しかったから。
食事を届ける以外にも
新聞を届けたり、飲み物を持っていったり
何かと都合をつけてスモーカーさんの部屋へ通った。
食堂での仕事の時間以外を
ほとんどそこで過ごしていた。
この人のそばが
やっぱり一番居心地がいいから。
——トントン
ドアをノックすれば、いつもならすぐに
返事があるのに、今日はなかった。
まだ安静中のはずなのに
もしかして部屋を出てしまった?
恐る恐るドアノブに手をかけると
鍵はかかっていなくて、ドアが開いた。
そっと中を覗く。
いつものベッドの上で静かに寝息を立てていた。
寝ているところを起こしたらまずいと
その場を去ろうと思ったけど
少しの好奇心が芽生えてしまった。
寝顔を見たい。
足音を立てないように近付いて
そっとベッドの横に立つ。
まだ包帯が巻かれている身体で
布団もかけずに、大の字で眠っていた。
海軍本部中将の肩書きを忘れそうなほどの
無防備な姿に笑みが溢れる。
ふと、唇に目がいくと、視線を逸らせなくなった。
あの時、私にキスしようとしたの?
スモーカーさんが帰ってきてからも
結局ずっと聞けないでいる。
——と、視線を感じたのか
静かにスモーカーさんの目が開いた。