最終章 〜奏でる〜
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まるでスローモーションのように
スモーカーさんの顔で視界がいっぱいになって
思わず目を閉じた。
フワっと、葉巻の香りが鼻をくすぐって
すぐそばに気配を感じた。
瞬間——
「スモーカーさん!!いますか!?」
ドンドンと強く扉を叩く音とともに
たしぎさんの声が廊下から響いて
咄嗟に私たちは距離を取った。
バクバクとうるさい胸をおさえる。
今の、もしかして。
でも、まさか、スモーカーさんが私に?
混乱する私をよそに、スモーカーさんは
何事もなかったかのように立ち上がり
扉を開けた。
「なんだ、うるせェ。」
扉の前には、焦った様子のたしぎさんが
数人の兵士を引き連れていた。
「麦わらです!!」
「!!」
一瞬にして、スモーカーさんの顔つきが変わる。
「情報が入りました!実に2年ぶりです!シャボンディ諸島に現れ、魚人島へ向かったと!!」
「この海へ来るか…麦わら。」
麦わら。
ローグタウンに現れ
スモーカーさんが
そいつがまた……
「魚人島へ向かいますか?」
「いや、待ち伏せる。」
また、私の大事な人を……
「船を出すぞ。魚人島からの航路を調べろ。」
「はい!すぐに!!」
スモーカーさんが指示するなり
たしぎさんと兵士達は部屋を出た。
掛けていた上着を羽織り
部屋を出ようとするスモーカーさんの腕を
私は咄嗟に掴む。
邪魔はしたくない。
だけど
2年前のあの日のように、麦わらを追ったまま
また会えなくなってしまう気がしたから。
「……前にもこんなことあったな。」
私が何を言いたいのか察したように
大きな手が私の頭に乗せられた。
「心配すんじゃねェ。今回はちゃんと帰ってくる。」
その温もりは涙が出そうなほど暖かくて
あの時とは違うと思えた。
それは、強くなったスモーカーさんへの想いが
2人の繋がりが
大丈夫だという自信に変わっていたから。
『待ってます
必ず帰ってきてください』
一枚のメモを書いた瞬間に
腕を強く引かれ、気付けばスモーカーさんの
腕の中だった。
「行ってくる。」
最後にそう言い残して
私のメモを手に、部屋を出て行った。
強く抱き締められた感覚が残って
しばらくその場に立ち尽くしていた。
あんなふうにスモーカーさんの方から
抱き寄せてくれたのは初めてのこと。
全身が熱い。
その温もりを忘れないように、確かめるように
自分で自分をギュッと抱き締める。
どんなに危険な任務になるかはわからない。
“麦わら”って海賊が
とても危険な奴らだってことくらい私にもわかる。
願わずにいられなかった。
神様どうか、お願いします。
私は母を失って、優しかった父を失って
平穏を失って、声を失った。
だからどうか
あの人だけは
私から奪わないでください。