第七章 〜忘れる〜
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抱えた膝が湿っていって
涙がポタポタと流れていたことに気付く。
避けられていると自覚した。
スモーカーさんとは
もう前のようには戻れないのかな。
こんなつもりじゃなかった。
こんなままじゃ嫌だよ。
こんなところで泣いていたって仕方ないのに
動けない。
——ガチャ
「……何してる。」
少しして、スモーカーさんが扉を開けた。
つい顔を上げてしまい、思いっきり涙を見られる。
それを見たスモーカーさんは罰が悪そうに
自分の頭をぐしゃぐしゃと掻いた後
私の腕を掴んで立ち上がらせる。
「入れ。」
中に連れられ、扉が閉まった。
「出てったのに足音が離れていかなかったから、そこにいるとわかってた。」
スモーカーさんはそう言いながら私を椅子に座らせ
自分も隣の椅子にドスッと腰掛ける。
「何を泣いていた。」
大きく鼻を啜ってゆっくり息を吐き
気持ちを落ち着かせ
それでもまだ少し震える手でメモを書く。
『さけられて悲しい』
「おれにか?」
頷く。
「そんなつもりはねェが……お前が変なこと言うからやりづれェんだ、こっちは。」
口に咥えた2本の葉巻に火をつけながら
スモーカーさんはそう答えた。
変なこと。きっと告白のことだ。
意を決して伝えた私の気持ちは
スモーカーさんにとっては
鬱陶しいものでしかなかった…?
『好きになってくれなくていい
今までと同じでいいから 拒否しないで』
書きながら、また涙が溢れてきた。
「……わかったから、もう泣くな。」
大きな手が頭の上に乗せられる。
久しぶりのその暖かい温もりに
余計に涙を誘われる。
「頭を冷やせと言ったろ……勘違いだったってことはねェのか。」
『この気持ちが勘違いなら 涙なんて出ません』
「……そうかよ。」
『でも忘れる』
こんな2人になってしまうぐらいなら……
『スモーカーさんへの気持ちは忘れます』
『だからまた、食堂にも来てください』
自分の決意を込めてそう書いたけど、本音は違う。
全然、忘れられそうにない。
でも今までのように戻るには
そう言う他、ないと思った。
スモーカーさんはそれを手に
しばらく見つめていたかと思うと
「……なるべく今まで通りにする。」
そう言って立ち上がり
食事の置いてある机に着いた。
「食っちまうから、そこで待ってろ。」
私は笑顔を作って、頷いた。
この気持ちを忘れることなんてできないけど
心の奥底、うーんと下の方で
こっそりと想っているくらいなら
許されるだろうか。