第七章 〜忘れる〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
音の鳴らない恋の行方 第七章 〜忘れる〜
あの夏祭りから
スモーカーさんと顔を合わせない日が続いた。
あの人が、ぱったりと食堂へ来なくなったから。
きっと仕事に追われてるんだ。
それか、任務で海へ出ているか。
そう思っていたけど、基地内でたしぎさんや
01部隊の兵士さんを見かける度にモヤモヤとする。
もしかしたら、私避けられているのかも。
そんな思いが胸をよぎる。
大丈夫。スモーカーさんは
彼らより忙しい人だから仕方ない。
無理やりそう決めつけることで、心を保っていた。
——何歳違うと思ってる。
——こんな男、やめておけ。
ふとした瞬間に
あの夜言われた言葉が頭に響く。
部屋に帰ってひとりになると、涙が溢れる。
2年前、一度は諦めかけたこの恋。
あの時に終わりにしておくべきだった?
そうしたら
こんなに辛い想いをせずに済んだのかも。
次の日も、その次の日も
スモーカーさんは食堂に来ない。
『スモーカーさんは?』
食事中のたしぎさんに聞いてみる。
「今日も来てないですか?ここ最近は特に大きな任務もないし、食事くらい取れると思うんだけど…」
たしぎさんも不思議がっているようだった。
いくら私と顔を合わせたくないからって
ここまで避けられると、悲しい気持ちを通り越して
だんだんと腹が立ってくる。
気付けばトレイにひとり分の食事を用意していた。
——トントン
勢いで、部屋まで来てしまった。
「入れ。」
久しぶりに聞く好きな人の声は
どこか私の心をくすぐって、怒っていたはずなのに
胸が掴まれたようにギュッとなった。
ローグタウンにいた頃にも、こうして
部屋まで食事を届けたことがある。
あの時よりも、今の方がずっと緊張している。
でも後戻りは出来ず、意を決して扉を開けた。
「………ミドリ。」
手元の書類から顔を上げたスモーカーさんは
少しだけ目を見開いた。
私は食事を載せたトレイを机の端に置く。
「……わざわざ持ってこねェでも、飯なら適当に済ませてる。」
言いながらスモーカーさんは視線を
再び手元の書類に戻した。
『最近食堂に来てないようなので』
メモを書く手が少し震えた。
「……せっかくだ。食わせてもらう。食器は自分で片付ける。もう行け。」
「………」
目も合わせないスモーカーさんに
軽く頭を下げて、部屋を出る。
悲しかった。すごく。
あの時のように「すぐに食うから待ってろ」とは
言ってくれなかった。
扉を閉めて、その場にしゃがみ込んで
唇を噛み、涙を堪えた。