第五章 〜感じる〜
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「どうした。」
いつものぶっきらぼうな言い方も
今の私には安らぎを与えてくれるほどで
しばらくこの手を離せそうにない。
「……少し話すか。」
私の様子がいつもと違うことに気付いてくれたのか
スモーカーさんはそう言うと談話室へ移動した。
兵士の皆が訓練の合間によく休憩している談話室。
でもこの時間は私たち以外誰もいない。
スモーカーさんに
こんな悩みを相談するつもりはなかったけど
今日の出来事は思い出すだけでもとても怖かったし
忙しいスモーカーさんとこんなふうに
2人で話せる機会もあまりないから
私は甘えさせてもらうことにした。
「……まァ事情はわかったが、何も心配いらねェ。」
いつものように筆談で一通り話すと
スモーカーさんは本当に何事もないかのように
煙を吐きながらそう言った。
「確かにここのヤツらはどうしようもねェヤツばかりだが、腐っても兵士だ。人の道を踏み外すようなことはしねェよ。」
大きな手が伸びてきて
ポンポンと頭を撫でられる。
「周りが男ばかりの生活で不安なのもわかるが、気にしすぎると疲れちまうぞ。」
この頭を撫でられる行為
最初はすごく嬉しかったけど、最近はなんだか
子どもをあやしているのと同じに感じる。
胸の奥がモヤモヤとした。
『スモーカーさん、私のこと女として見てくれてます?』
「あ?何言ってんだ。どう見ても女だろ。」
その返事に、私は無意識に口を尖らす。
そういう意味じゃないのに
本当にこの人は、そういうところはとても鈍い。
2年経っても、いつも意識してるのは私だけだ。
「………」
「何を怒ってる。」
プイッと顔を逸らす。
こんな不貞腐れたような態度をとってしまうから
子ども扱いされてしまうのだろうか。
「……用が済んだなら戻るぞ。」
スモーカーさんは立ち上がって談話室を出る。
ヤバい。
忙しい中、せっかく話を聞いてくれたのに
嫌な態度をとってしまった。
私は一枚メモを書いて追いかける。
『話聞いてくれて ありがとうございました』
それを読んでスモーカーさんは
口角を上げて薄く微笑んだ。
「礼なんていらねェ。さっさと部屋戻って寝ろ。」
最後のその笑顔だけで
胸のモヤモヤが一気になくなる。
悔しいけど、やっぱりこの人には敵わない。