第五章 〜感じる〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おはよう、ミドリちゃん。」
「よう。後で行くな!」
1ヶ月もすると、興味本位で厨房を覗いてくる
ギャラリーはいなくなり
皆堂々と挨拶をしてくれるようになった。
ちゃんと言葉で返せないのを申し訳ないと思いつつ
すれ違う兵士さんひとりひとりに
笑顔で頭を下げながら歩けば
皆手を上げて笑顔を返してくれる。
こんな私にも、分け隔てなく接してくれる。
海軍のはみ出し者ばかりだと聞いたけど
私はここの皆が好きになってきた。
「ミドリ、コーヒー一杯もらえるか。」
いつも決まった時間に
コーヒーを飲みにくる兵士さん。
どこの部隊なのかも、名前も知らないけれど
なぜか私のことは呼び捨てで
コーヒーを頼む時も、料理を頼む時も
必ずこうやって私を指名してくる。
カウンターへ行ってコーヒーを手渡すと
私の手を撫でるように触りながら
カップを受け取った。
「ありがとな。」
それはここ最近いつもやられること。
そして優しい笑顔を向けられる。
悪い人じゃないのもわかる。
けど、その距離感に、実は少し悩んでいた。
いつもカウンター近くのテーブルに座って
コーヒーをすすりながら
なんだかこちらの様子を伺っているみたい。
考えすぎかもしれないけど……
——と、入口からたしぎさんが入ってきた。
今日は非番のようだ。
「ミドリ、今日は何時まで?」
『19時』
「じゃあ仕事終わったら私の部屋に来て?さっき街で美味しいケーキ買ってきたの。」
嬉しい提案に、笑顔で頷く。
夜、たしぎさんに相談してみよう。
ーーーーーーー
ここの基地には女性はいないので
女子寮を使っているのは私とたしぎさんだけ。
部屋はちゃんと個室に分かれていて、隣同士。
約束通り、仕事終わりにたしぎさんの部屋を訪れ
ケーキをご馳走になっていた。
「手を触られる?」
早速、不安になっていたことを相談すると
たしぎさんは眉間に皺を寄せた。
コクンと頷いて答える。
「たまたま触れてしまうだけじゃなくて?」
首を横に振る。
「どんなふうに触られるの?」
あの兵士さんにいつもやられることを見様見真似で
カップを持つたしぎさんの両手を触ってみた。
たしぎさんは想像したようで
げぇ、と嫌そうな顔をした。
「たしかに、それはちょっと普通じゃないわね。」
やっぱり。
私の考えすぎじゃなかった。
「ただのセクハラならまだいいけど……いい?次から料理やコーヒーは手渡ししないでカウンターに置いて渡して。あと、これ以上何かされたら周りの人に助けを求めた方がいい。」
コクコクと頷く。
「何かあったら料理長とか、私やスモーカーさんでもいいから、すぐに言ってね!!」
スモーカーさん。
その名前に顔が熱くなる。
スモーカーさんには、こんな相談できない。
私のちっぽけな悩みなんかで
忙しいあの人に迷惑をかけたくはなかった。