第四章 〜動き出す〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大きな扉の前で全身が震える。
この向こう側に、ずっと会いたかった人がいる。
たしぎさんは部屋の場所だけ教えると
2人きりでゆっくり話しておいで、と言って
すぐにいなくなってしまった。
深呼吸をひとつして
勇気を出して、震える手でドアをノックした。
——コンコン
「入れ。」
中からぶっきらぼうに聞こえたその声は
間違いなくスモーカーさんその人のもので
途端に目頭が熱くなる。
そっとドアを開けると
机に向かっていたスモーカーさんが顔を上げた。
「……ミドリ。」
白い髪。葉巻を2本咥える口元。悪い目つき。
スモーカーさんだ。
名前を呼んでくれた。
私を覚えていてくれた。
前より伸びた髪を後ろに流していて
額から右目には大きな縫い傷。
2年前と違うところもあるけど
目の前にいるのは、あのスモーカーさんだ。
ボロボロと涙が頬を伝って
全身の力が抜け、思わず膝をついた。
「おいっ、何泣いてやがる。」
スモーカーさんは席を立つと
私の前にしゃがみ込んで視線を合わせてくれた。
「勘弁しろ。おれが何したってんだ。」
伸びてきた大きな手で
頭を掴むように撫でられる。
その感覚も久しぶりで、余計に涙を誘う。
「元気にしてたみたいだな。」
頷くだけで精一杯だ。
久しぶりの好きな人をもっとちゃんと見たいのに
顔も上げられない。
「いつまでそうしてる。落ち着くまでこっち座ってろ。」
スモーカーさんは私の腕を引いて立ち上がらせると
近くにあるソファーに座らせてくれた。
必死で気持ちを落ち着かせて
持っていたハンカチで涙を拭き、顔を上げると
スモーカーさんが目の前に、ある物を差し出す。
「大事なもんだろ。ちゃんと自分で持ってろ。」
あのクマのぬいぐるみだった。
ちゃんと、持っていてくれた。
また目頭が熱くなる。
それを抱き締めると少し葉巻の香りがして
この子はずっとスモーカーさんのそばにいたんだ
と、嬉しくなった。
『大事に持っててくれたんですね。』
やっと、落ち着いて筆談する余裕ができた。
「捨てることもできねェ。迷惑なもんだ。」
スモーカーさんは隣に座って煙を吐いた。
彼らしい返答に
私は2年ぶりの笑顔を見せた。