第四章 〜動き出す〜
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軍の連絡船に乗って、G-5を目指した。
人生で初めて出た海。
それは全く知らなかった世界。
異常気象に荒れ狂う波。
見たこともない巨大生物。
慣れない船上生活。
それに加え、終わることのない船酔いのせいで
寝不足が続き、体調は最悪だった。
この異動が決まったとき、最初は手放しで喜んだ。
でも、後々冷静になってくると
だんだんと不安の方が大きくなってくる。
2年という月日は、あまりに長かった。
スモーカーさんと再会できたとしても
あの人は私を覚えてくれているだろうか。
もしかしたら、基地で会っても
気にも留めてくれないかもしれない。
それに、口も聞けない人間なんて
同じ班の人たちに歓迎されないかもしれない。
こんな私が、新天地でうまくやっていけるのか。
体調が悪くなるにつれ、私の不安も大きくなり
G-5に着く頃には心身ともに疲れ切っていた。
ーーーーーーー
「こんな所までよく来たな。歓迎するよ。」
出迎えてくれた料理長に頭を下げる。
ローグタウンの料理長は割と若い
爽やかな男の人だったけど
この人はヒゲを生やし、いかにもベテランで
ワイルドという言葉が似合うおじさんだ。
「話せないんだったな。部屋に案内する前に、厨房へ行こう。コック達に紹介するから。」
その人について厨房へ向かう。
ローグタウンの基地もとても大きいと思ったけど
ここG-5の基地はその倍以上の広さがあり
慣れるまで迷子になりそうなほどだ。
そして、食堂も厨房も広かった。
「
料理長に紹介され、皆からの注目を浴びる。
「おい、女だ。」
「あァ、いい匂いしそうだ。」
「やめろ変態。」
「でも可愛いな。」
「これからはずっとここに女がいるってことか?」
「ヤベェな、それ。」
色々な囁きがあちこちから聞こえてきて
恥ずかしくなる。
ローグタウンの厨房でも女は私ひとりだったから
覚悟はしていたけど
何度見渡しても、やはりここも男の人しかいない。
それに、ここのコックさん達は、なんというか…
よく言えば男らしいとか、野生的というか…
悪く言ってしまえば
野蛮そうな…少し強面な人たちばかりで…
うまくやっていく自信を失いそうになりながらも
とりあえず頭を下げる。
「最初に言っておくが、ミドリは口が聞けない。話す時は筆談になる。手間かけるが早めに慣れてやってくれ。」
料理長のその言葉に皆が少しざわつく。
面倒な奴が来た、と思われていることだろう。
そんな人間でごめんなさい、と気持ちを込めて
もう一度深く頭を下げた。
申し訳なく顔を上げると
「そんなこと、どうってことねェ!」
「全くだ!可愛い女子と働けんだ!」
「よろしくなァ!ミドリ!」
腕を上げて嬉しそうに笑いながら
口々にそう言ってくれる皆を前に
鼻の奥がツンとなる。
なんだ、皆すごくいい人たちだ。
涙を堪えて、唇を噛んだ。
まさか、そんなふうに言ってもらえると
思ってなかったから、不意をつかれた気分。
——んなこたァどうだっていい。
あの時のスモーカーさんの言葉を思い出した。
この人たちもスモーカーさんと同じように
細かいことは気にしないで
ハンディキャップのある私も同等に扱ってくれる
そんな人たちなんだとすぐにわかった。
不安は一瞬で吹き飛んだ。