第三章 〜遠のく〜
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ぽっかりと心に穴が開いたような毎日だった。
スモーカーさん達が行ってしまった後
すぐに本部から替わりの基地長が来て
何もなかったかのように基地は動いていた。
私は寂しさを紛らわすよう、がむしゃらに働いた。
——また会える。
最後に残してくれた
その言葉だけが私の支えだった。
あの中庭へは、なぜか足を運べなくなった。
時たま廊下の窓から覗くと
いつも並んで座ったベンチが目に入る。
その奥にある木の下には
いくつもの石が転がったままになっている。
もうこの場所でスモーカーさんと過ごすことは
二度とないんだろうか。
胸の奥がチクンと傷んだ。
非番の日には、よく港へ行った。
もしかしたら
スモーカーさんとたしぎさんを乗せた船が
フラっと帰ってくるんじゃないかと
淡い期待を持ちながら海を眺めていた。
「…ぅ……」
「……っう…ぅ……」
港ではいつも
ひとりでこっそりと、声を出す練習をした。
次に会えたら、好きって伝えるんだ。
絶対に伝えたいんだ。自分の言葉で。
声にならない声が、虚しく波の音に消えて行く。
何日も、何ヶ月も経った。
軍のニュースで、2人の名前を時々見かけた。
大体が昇進の知らせや異動の知らせ。
今は
どのくらい遠いのかもわからない。
いつの間にか私は
港へも行かなくなったし
声を出す練習もしなくなった。
心のどこかで、もう必要ない、と
諦めていたのかもしれない。
私の居場所はスモーカーさんが
用意してくれたものなのに
今では、彼と過ごした時間は幻だったように思う。
それほど、月日が流れていた。
ずっとずっと想い続けたい気持ちと
諦めたほうが楽になれるかもと思う気持ちで
いつも頭の中はぐちゃぐちゃ。
そんな毎日でも、寝る前に目を閉じると
必ず顔が浮かぶ。
どこかで葉巻の香りがすると、姿を探している。
ありのままの私を受け入れてくれた。
あんな人、もう二度と出会えない。
会いたい。
笑いかけてくれなくてもいい。
いつものように、不機嫌な顔のままでいいから
そばにいたい。
あっという間に2年が経ち
私は20歳を超えた。
今も、あなたを好きなまま
私は生きている。