第三章 〜遠のく〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「連れていけるわけねェだろ。どんな場所だと思ってる。」
追い返されることは、わかってた。
もしかしたら、万が一、船に乗せてもらえるかも。
そんな淡い期待だけでここへ来た。
困らせたいわけじゃない。
止められない涙が、雨と一緒に流れていく。
俯く私をたしぎさんが抱き締めてくれた。
「本当に危険な海なの。危ない目に遭わせたくない。ミドリは、ここに残るべきです。」
返事の代わりに、強く抱き着いた。
「寂しい思いをさせてしまってごめんね。」
「元気でやれ。」
横からその大きな手で頭を撫でられ
勢い任せに、今度はスモーカーさんに抱き着いた。
「先に行きます!ミドリ、元気で!」
気を遣ってくれたのか
たしぎさんは先に出航準備が進む船へと向かった。
急いでいるのもわかってる。
ゆっくりお別れもできない状況なのも。
それでも、最後のわがままをさせてもらった。
ギュッと腕に力を込め、硬いお腹に顔を押し付ける。
深呼吸をして、思い切り鼻から息を吸い込むと
葉巻の香り、そのスモーカーさんの香りに
妙に心が落ち着いた。
「……満足したら、さっさと離れろ。」
私はずるい。
優しいあなたは
いつかのあの時みたいに、無理やり引き離すことはしないって、わかってた。
そっと腕を離す。
「また会える。」
最後にもう一度、私の頭に手を置いて
腰をかがめ、視線を合わせてくれる。
私は涙を拭って
持っていたクマのぬいぐるみを渡した。
「なんだ?」
雨に濡れた紙に走り書きでメモを書き
それも一緒に手渡した。
「大佐!!出航準備整いました!!」
「あァ。すぐ行く。」
私の行動に戸惑いながらも
メモをポケットに入れ、クマを小脇に抱えた。
「もらってっていいんだな?」
私の一番大切なものを
一番大好きな人に持っていてほしかった。
私のことを忘れないでいてほしいから。
私とスモーカーさんを
きっとまた引き合わせてくれる。
唇を噛み締めて頷くと、スモーカーさんは
向きを変え、船の方へと走った。
涙を堪えて
小さくなっていく背中を見送る。
嵐の中を、皆を乗せた船が出航する。
追い風を受けて、すぐに見えなくなった。
大好きな人が、行ってしまった。