きっと愛だった/アーロン
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「オイ。」
閉店作業をしている店長のそばにアーロンが近付き
低く響く声で呼ばれると、店長はビクッと反応した。
「は、はい!何か?」
「こいつの家はどこだ。」
アーロンは片腕で
眠ってしまったミドリを抱き抱えていた。
「ミドリちゃん、寝ちゃったんですか?」
「家はどこだと聞いてるんだが。」
「すみませんっ」
怯える店長からミドリの家までの道順を聞き
代金を置いてアーロンは店を出た。
所々街灯が灯っているだけの暗い夜道。
こんな時間では人通りもほとんどない。
冷たい夜風が吹き抜けて
ミドリは目を開けた。
「……あれ、アーロンさんに抱っこされてる。」
「なんだ、起きたんなら下ろすぞ。」
「待ってください。まだ頭回ってて…」
「あんな酒3杯でみっともねェなァ。」
瞼は半分も開かず、焦点の合わない目で
周りを見回すが
状況を理解することはすぐに諦めて
ミドリはまた目を閉じた。
とりあえず、アーロンは
自分を家まで運んでくれているようだ。
「優しいですね。」
「置いて帰ってもよかったんだが。」
「お姫様抱っこはしてくれないんですか?」
「てめェなんか片腕で十分だ。」
ミドリにとって、特別な時間だった。
誰かの温もりをこんなにも感じたことは
物心ついた頃から一度もなかった彼女は
目を閉じたまま、全身でそれを満喫した。
「アーロンさん…私、帰りたくないです。」
「あァ?てめェが帰らねェと
おれが誘拐したことになっちまうだろ。
面倒ごとは勘弁してくれ。」
「じゃあ今日は大人しく帰るんで
私が売られたらアーロンさん買ってください。」
冗談を抜かしているのか
それとも本気で言っているのか
「アーロンさんになら買われてもいいです。」
目を閉じたままのミドリの表情からは
アーロンには本音がわからなかった。
「誰がてめェなんか買うか。おれは魚人だ。
人間なんか買わねェし、船に乗せたくもねェ。」
「あはは。
アーロンさんはそう言うと思ってました。
言ってみただけです。」
笑ってそう言うと
ミドリは自らアーロンの腕から下り
少しフラつく足をなんとか正してその場に立つ。
「ここからはひとりで帰れます。
ありがとうございました。」
「そうか。じゃあな。」
ミドリを置いて
アーロンは帰り道へと向きを変えた。
「アーロンさん!」
その背中に向かって声がかけられ
振り返れば、笑顔のミドリが手を振っていた。
「今夜は本当に楽しかった!
ありがとうございました!お元気で!」
もう会うつもりはないんだ、と
その言葉で悟った。
ミドリに軽く手を挙げ
体の向きを変えて帰路へと戻った。
本当に変な女だった。
本音かどうかはわからないが
人間から好意を寄せられたのは初めての経験だ。
だが、あいつはもうおれと会う気はない。
自分の運命を受け入れたんだ。
あの女が売り飛ばされようが
このまま親の元でひどい目に遭っていようが
おれには全く関係ない。
が
胸の奥にモヤモヤと湧いてくる
この焦燥感の理由はなんだ。