きっと愛だった/アーロン
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——数日後。
「ミドリ!ミドリ!!」
ミドリの自宅では
朝から父親が大声で彼女を呼ぶ声が響いていた。
「何?」
「酒が切れた。買ってこい。」
「お医者さんから止められてるでしょ?
もうそのくらいにしたら?」
「うるせェ!!親に指図するんじゃねェ!!
いいから行ってこい!!」
さらに大声が響き、空になった酒瓶が飛んでくる。
ミドリが咄嗟に避けると
それは横の壁にぶつかって割れた。
あぁ、今日もすこぶる機嫌が悪い、と
ミドリはその破片を片付けながら思った。
母親は、どこぞの男のところへ行っているのか
昨日から姿を見ていない。
「片付けは後にしろ。さっさと買いに行け。」
いつの間にか後ろには
ミドリを見下ろして仁王立ちする父の姿。
「そんなお金ありません。」
「お前、昨日給料日だったはずだ。」
「………」
「さっさとしろ。」
今日は殴られないだけマシだった。
仕方なくミドリは
給料袋から金を出し、それを手に家を出た。
酒屋を目指して歩く。
小さな町だが、商店街を歩けば
多くの子連れやカップル達とすれ違う。
皆楽しそうに笑っていて
ミドリだけが冴えない顔をしていた。
なんて不幸な女なのだろう。
いつまでこんな毎日が続くのだろう。
嫌い。
大嫌い。
暴力で自分を支配しようとする父も。
見て見ぬふりで、ほとんど家に帰らない母も。
ただ堪えることしかできない自分も。
いつかこの生活から抜け出して
夢を叶える日はやってくるのだろうか。
気付けば目的の酒屋は通り過ぎて
港が見えてきている。
海まで来るのは久しぶりだった。
「……これ、きっとアーロンさん達の船だ……」
どこまでも続く海原を背景に
太陽に照らされたタイガーの船が
大きな存在感を放っていた。
この船で、彼らはどこまでも自由に旅をするんだ。
羨ましくもなり
自分の生きている世界が
とてもちっぽけに思えてくる。
その場に座って、その大きな船を眺めているだけで
ミドリは自分も自由になれるような気さえした。
「……うちの船に何か用か?」
「うわ〜…大きな魚人!」
海賊船を眺めていたミドリの元へ現れたのは
その船長、フィッシャー・タイガー本人だ。
ミドリは慌てて立ち上がり
嬉しそうに彼を見上げる。
「アーロンさんもとても大きいと思ったけど
あなたはもっともっと大きいですね!」
「なんだ、アーロンの知り合いか。」
「はい。お友達です。」
「友達!?あいつの?
こんな可愛らしい女の子がまさかなァ!」
タイガーは大口を開けて笑った。
仲間の中で1番と言っていいほど人間嫌いなアーロンが
こんな少女と友達になるだなんてありえない話だが
もし本当ならそれはそれで面白すぎる。傑作だ。
「あいつなら船にいると思うが、呼んでくるか?」
「いいです!私用事があるし
またお店に来てくれるのを待ってます。」
「わかった。伝えておこう。」
タイガーに手を振り、別れを告げ
ミドリは酒屋へと向かった。
不思議と先ほどよりも足取りが軽くなっていた。