きっと愛だった/アーロン
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海賊であり魚人であるアーロンと
ただの人間であるミドリが再び会ったのは
それから3日後の夜中のこと。
アーロンは仲間たちと飲んだ後
酔いを覚ましに町中をひとり歩いていた。
酔い覚ましとは言っても
手にはまだ、最後の酒瓶が握られている。
「あ、アーロンさんだ。」
ふいに声をかけられ、声がした方を見れば
道端に座り込むミドリの姿があった。
「……てめェは…」
「ミドリです。忘れちゃいました?
この間の、ご飯屋の店員です。」
「なぜおれの名を知ってる。
名乗った覚えはねェが。」
「あの日、仲間の皆さんに
そう呼ばれてるのが聞こえたんです。」
若い娘がこんな時間にこんな暗い夜道で
ひとり座り込んでいるのには
何か理由があるのだろうか。
たいして興味はなかったが
特に急いでいるわけでもないアーロンは
暇つぶしに、と隣に腰掛けた。
「わ、アーロンさんお酒臭い!」
手に持つ酒を指摘されて
アーロンはチッとひとつ舌打ちをした。
「うるせェ。てめェこそこんな夜中に
ひとりで何してる。ガキは寝んねの時間だろ。」
「……帰りたくないんです。家に。」
「不良娘が。」
「お酒って美味しいですか?
私まだ飲んだことがなくて…」
「ガキにはまだ早ェ。」
「飲めば、嫌なこと忘れられます?」
「なんだ、忘れたいことでもあるのか。」
「そりゃあ、人生楽しいことばかりじゃないです。」
その一言に何かを察して
街灯に照らされるミドリを見る。
顔には変わった様子はないが
Tシャツや短パンから出る手足には
無数の傷やアザがあった。
赤く腫れているところもある。
初めて会った時には気付かなかったものだ。
特に隠している様子もなかったので
アーロンは気にせずに指摘した。
「てめェ、ろくな男と付き合ってねェな。」
言った瞬間、ミドリは楽しそうに笑った。
「あはははっ!彼氏なんかいないですよ。」
手足を伸ばし
自分でもそれを確認するように見つめる。
「これは全部、親から受けたものです。」
「なるほどなァ。だから家に帰りたくねェ、か。」
「まぁあんな人たちを
親と思ったこともないですけどね。」
「……そんなヤツらの元に生まれちまった
てめェの運命だな。諦めろ。」
言いながらアーロンは立ち上がる。
暇つぶしは終わったようだ。
家に帰りたくないというミドリの問題を
解決してやる気は無いし、そこまでする理由もない。
胸糞悪い話をこれ以上聞く気もない。
ましてや、相手は人間。
同情の気持ちすら湧かない。
ミドリもまた
特に引き留めようとはしなかった。
「また、お店にも来てくださいね。」
「気が向いたらな。」
アーロンはまだ少し中身が残っている酒瓶を
ミドリのすぐ横に置いた。
「……くれるんですか?」
「ゴミを捨てていくだけだ。」
最後にそう言い残し
港へと戻っていくアーロンの背中を
ミドリは見えなくなるまで見送る。
「………まずぅ…」
初めて飲んだ酒の味は
臭く、辛く、喉が熱くなるだけで
美味しいとは言えないものだったが
ミドリはその場で全て飲み干した。