第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なんとなくわかった。
両親のことを思い出しているんだと。
「……どんな両親だったんだ?」
辛い想いをさせるかと思ったが
ミドリの胸の奥底に溜まっているものを
吐き出させてやりたかった。
泣きたいなら、思い切り泣かせてやりたい。
「……父は…」
ゆっくりと、震える声で
ミドリが少しずつ話を始めた。
「町一番の医者で…いつも忙しそうで……
あまり遊んではくれなかったし、厳しかったけど
家族を大事にしてくれる人でした。」
夕陽が海に反射し始め、だんだんと
ミドリの横顔がオレンジに染まりつつあった。
その大きな瞳から
一筋の涙が頬を伝った。
綺麗な涙だと思った。
「母は明るくて、いつも優しくて
父のことを支えながら私に医学を教えてくれて…
とても暖かい人でした。」
「……大事に育ててもらったんだな。」
「……2人に会いたい。」
声にならない声でそう呟くと
ミドリは涙で濡れた顔を両手で覆って
甲板の柵へ突っ伏した。
おれは黙って、そっとその髪を撫で続けた。
「すみません…泣いたりして。」
落ち着いたのか
ミドリは顔を上げてひとつ深呼吸をした。
「大事な人を失う辛さはよくわかる。
残された方は、そいつを想って
生きていくしかないんだ。」
偉そうなことを言いながら
おれはサボのことを思い出していた。
会いたくてももう二度と会えない悲しみも
泣くことしかできない弱い自分に嫌気がさすのも
ミドリの気持ちは痛いほどよくわかる。
「ズ……」
鼻をすする。
気付けばおれの目からも涙が流れていた。
ヤバい。サボのことを考えすぎた。
「……使ってください。」
ミドリにハンカチを差し出される。
「いらねェよ。」
「でも…鼻も出てますよ?」
「うるせ。」
あァ、励ますつもりが
格好悪ィところを見せちまった。
腕で適当に涙を拭って
ミドリを見ると
「……あははっ」
突然、笑い出した。
「すみません、なんだかおかしくて。」
初めて見る、ミドリの笑顔だった。
「一緒に泣いてもらったら、少し元気が出ました。
笑ったのなんて久しぶり。」
その笑顔を見て
おれは動けなくなる。
目を奪われる、とはきっとこういうことだ。
夕陽に照らされて、余計に眩しかった。
初めての経験だったが、すぐにわかった。
これが恋なんだと。