第三章
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目の前にニッと微笑むエースの顔。
釣られて私も、笑顔になった。
「ありがとう。」
「おう。それなら両親も安心だな。」
エースは満足気に手を離した。
触れられていた顎が熱い。
それになんだか、久しぶりに隣に立ったせいか
エースがいつもより大きく感じられて
その存在をすぐ近くに感じる。
遠くに仲間達の声が聞こえるけど
明かりの少ない、薄暗い後甲板で
この空間には私たち2人しかいないような感覚。
なんだか気持ちが素直になった。
「星を見てたら、パパとママが
見守ってくれているような気がして。」
「あァ。確かに今日はよく見えるな。」
「この船で頑張っていくねって、報告してたの。」
「そりゃ向こうで喜んでるだろうな。」
「……ありがとう、エース。」
改めてエースに向き合い、お辞儀をした。
頭を上げると
不思議そうな顔をしているエースと目が合う。
「エースのおかげで、もう一度ちゃんと
生きていこうって思えたよ。」
「………」
「私、オヤジさんに拾ってもらえて
エースもいてくれたおかげで今とても楽しい。」
感謝を伝えたくて
今までで一番の笑顔を向けた。
「だから、ありがとう。」
きっと薄暗くてちゃんと見えないから
その分大袈裟なくらい、満面の笑みを。
でも次の瞬間、視界が真っ暗になった。
状況を飲み込むのに、少し時間がかかった。
エースが私を抱き締めてるんだ。
片方の腕は私の頭に回されて
顔が胸板へ押しつけられる。
もう片方は肩に回されて
硬く鍛えられた腕の力強さを感じる。
服を着ていないエースの上半身の熱が
直接顔や体に伝わる。
ドクドクドク……
少し速く脈打つエースの鼓動。
同じように、どんどん速くなる私の鼓動も
エースに伝わっているかも。
「………」
「………」
ほんの数秒のことだったと思うけど
とても長い時間に感じられた。
どうしてこんな状況になっているのか
エースは何を考えているのか
何もわからない。
後頭部にあったエースの手が少しずつ動いて
私の耳をなぞり、首筋へと降りてきた。
くすぐったいくらいに優しいその手付きが
恥ずかしくて耐えられなくて
恐る恐る声をかける。
「……あの、エース?」
「わ、わりィ!」
声をかけた瞬間、エースは我に返ったように
慌てて私から離れた。
「悪かった!間違えたんだ。
えっと……頭冷やしてくるな。」
そのまま、目を合わすこともなく
踵を返して行ってしまった。
「……間違えたって何……?」
急に全身の力が抜けて
私はその場に座り込む。
耳のすぐそばに心臓があるんじゃないかと
錯覚するほど、ドキドキとうるさい。
触れられた個所が熱を持ったままだ。
男の人にあんな風に抱き締められたのは
生まれて初めてのことだった。
ましてや相手は自分が片思いしている人。
一気に酔いが冷めた。
エースの気持ちはわからない。
けど、抱き締められている間だけは
エースも私を想ってくれているような気がして
本音を言えばもう少しだけ
ああしていたかったと、こっそり想った。