第二章 〜交換条件と嘘のはじまり〜
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それは嘘からはじまる 第二章
〜交換条件と嘘のはじまり〜
おばあちゃんが倒れた日から
私は毎晩おばあちゃんの部屋で一緒に眠るようになった。
おばあちゃんと、少しでも長く一緒の時を過ごすためだった。
本人には病気のことは話していない。
それでもなんとなく、自分の体のことはわかるようで
急に子どものように「一緒に寝る」と言い出した私に何かを察して、快く受け入れてくれた。
何日か経ったある晩。
眠ろうと布団に入ると
先に眠っていたはずのおばあちゃんが
静かに話を始めた。
「ミドリ。私はね、もういつ向こうへ逝ってもいいと思ってる。」
「おばあちゃん…?」
「結婚もしないで、ずっとひとりだった私のところにミドリが来てくれた。こんなに立派に成長してくれて、これ以上の幸せはない毎日だったよ。」
「何言い出すのよ、急に……」
「ただひとつ、心残りは、あなたをひとり残してしまうこと。」
おばあちゃんは布団から手を伸ばし
私の頬に触れる。
痩せ細って、シワだらけだけど
とても暖かくて、私の大好きなおばあちゃんの手。
「誰かいい人を見つけてくれると安心できるんだけど。」
「こんな村じゃ無理だよ。それに、おばあちゃんはまだまだ元気でいるんでしょ?」
「そうだね。やっぱりあんたを残しては逝けないね。」
涙が出そうになりながらも
それを押し殺して笑顔を作ると
おばあちゃんも笑顔を返してくれた。
こんなことを言い合っていても
お互いわかっていた。
お別れが近い、ということを。
スフィンクスには、若い男の人がほとんどいなかった。
働き盛りの男の人は
皆仕事を求めて島の外へ出てしまうから。
そのせいで結婚する女の人はごく限られているし
村人も減っていく一方だった。
私も例外ではなく
結婚の話どころか、恋人がいたこともない。
それを寂しいと思ったことはないし
不安を感じたこともない。
でもそれは、これまでずっと
おばあちゃんがいてくれたからなんだ。
いざ、近い未来ひとりになると思うと
急に怖くなることもある。
それに何より
おばあちゃんを安心させてあげたい。