最終章 〜別れとはじまり〜
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「ミドリ!」
家の前に来て、何度か名前を呼んでも
ミドリが出てくる気配はない。
それどころか、家の中にもいないようだった。
庭の掃き出し窓から中を除くが誰もいない。
出かけているのか。
ミドリの行きそうな所…
診療所以外で、あいつが行きそうな…
ふと、あの丘が浮かんだ。
何度か2人で話をした、村全体を見渡せる丘。
「ミドリ……」
ベンチにひとり、座っていた。
「マルコさん……」
俺に気付くと、驚いたように目を見開いた。
少し、痩せた気がする。
走ってきたせいで乱れた息を整えて
隣に座った。
ミドリは少し気まずそうに
足元に視線を落としていた。
「……ちゃんと食べてるか?」
「はい…大丈夫です。」
「診療所に来るじいちゃん達が心配してた。」
「……おばあちゃんが亡くなってから…なんだか心にぽっかり穴が空いたようで…家から出る気になれなくて……ずっと引きこもってました。」
「あァ。無理することねェよい。」
「でも、なんとなく今日、ここに来たくなって……久しぶりにっ…外に出て……っ」
ゆっくり話すミドリが
だんだんと言葉に詰まり、鼻声になる。
「そしたら、マルコさんが来てくれたっ……」
こちらを向いて俺を見上げたかと思うと
大きな目から、大粒の涙がこぼれた。
俺は腕を伸ばし
ミドリ の小さな体を抱き寄せて
涙で濡れた顔を自分の胸に抱いた。
こんなの、抱き締めずにいられるか。
「うぅ…っ……」
肩を震わせて涙を流すミドリの
髪を撫でる。
どうしてもっと早く、こうしてやれなかったのか。
あの時、こうして涙を流させてやれていたら
ミドリにこの1ヶ月、ひとりで寂しい思いをさせることもなかったかもしれない。
「悪かった……」
抱き締める腕に力を込めると
ミドリが俺の背中に手を回した。
その小さな頼りない手の温もりに
俺の方が慰められた気がした。