第四章 〜不死鳥と名前〜
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遠くでおばあちゃんが泣いていたような気がして
目を開けると、見慣れた天井が映った。
そこは診療所のベッドの上。
カリカリと音が聞こえて
横を見ると、マルコさんがデスクで書き物をしていた。
「……人間に戻ってる…」
頭に浮かんだことをつい口走ってしまうと
マルコさんがこちらを向く。
「目が覚めたか。」
「すみません、私、いつの間にか寝ちゃって。」
「気にするな。昨日は寝られなかったんだろ?」
ニッコリと微笑むマルコさんに安心し、
ふと窓の外を見るともう真っ暗だった。
助けられたのは早朝だったから
半日以上眠っていたみたいだ。
マルコさんはノートを閉じて立ち上がると
ベッドの隣の椅子に腰掛けた。
「さっきまでばあちゃんもいたんだ。ミドリが無事だと知ると安心して泣いてたよい。怪我の処置はしたが、少し熱がある。今晩はそのまま安静にしてな。」
「はい。ありがとうございます。」
「……これを、採りに行ってたんだな。」
マルコさんの手には、私が持っていたはずの
薬草が入った袋。
私はなんだか恥ずかしくなって
マルコさんの顔を見られなかった。
あんな目にあったのに
袋の中の薬草はほんの一握りで
自信を持って差し出せないのが悔しい。
「途中で崖から落ちちゃって、あんなことに……」
「無茶するからだ。」
「この薬草を持って帰ったら、マルコさん、喜んでくれるかと思って…」
「俺が?」
「あ、すみません…恩着せがましい言い方でした……」
マルコさんは椅子から立ち上がると
私が寝るベッドの縁にそっと腰掛けた。
ギシ、とベッドがきしむ。
「抱き締めていいか?」
唐突なその発言に、私は一瞬思考が停止した。
「………え?」
返事もできず、パニクっているうちに
マルコさんの長い手が伸びてきて
そのまま覆い被さるように抱き締められた。
体温が一気に上昇する。
「あの…マルコさん?」
「恋人同士なんだろ?これくらい普通だろよい。」
こんな時に、恋人の練習?
固まる私の耳元でマルコさんのよく通る声が響く。
「ミドリも、俺の背中に手を回してみな。」
そっか。
恋人同士なら、こんな時抱き締め合うものなのかも。
なぜだか妙に納得して
言われた通り、マルコさんの大きな背中に腕を回す。
2つの体がピッタリと重なって
上半身にマルコさんの体の重みを感じる。
心臓がうるさい。
助け出してくれた時も
今も
さりげなくマルコさんは
私のことを呼び捨てで呼ぶようになった。
ミドリ、と。
それがなんだか、くすぐったくもあり
2人の距離が縮まったような気がして
嬉しくもある。
このまま離れたくない。
そんな気持ちを抱いたのは、生まれて初めてかもしれない。
〜第五章へ続く〜