第四章 〜不死鳥と名前〜
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それは嘘からはじまる 第四章
〜不死鳥と名前〜
マルコさんの診療所で働き始めて
ひと月ほどが経った。
偽りの関係も続いている。
最近は村の皆も私たちを冷やかすことに飽きたのか、特に何か言われることはなくなった。
マルコさんが村の子達からお弁当を受け取ることをやめると、その女の子達が診療所へ来ることもめっきりと減った。
穏やかな日々が続いている。
マルコさんの診療所は楽しかった。
これまで触れたことのない内容の本が
たくさんあったから。
私は時間を見つけては、医療に関する本に目を通していた。
「その辺に生えていそうな雑草も薬になるんですね。」
「なんだ、今度は薬草に興味を持ったんだな。」
「薬草ならこの村にもたくさん生えていそうだし、覚えれば私も少しは役に立てるかと。」
「これ以上役に立とうとしなくていいよい。」
ニッと微笑むマルコさん。
ふと、器具の整理をするその手元に目がいく。
あれ以来、手は繋いでいない。
というより″恋人らしいこと″を全くしていない。
マルコさんは「俺で練習しろ」なんて言ってくれたけど、やっぱり私からそういうことをするのはなんだか気が引けるし
マルコさんからも、それ以来何もなかった。
なんだかホッとしたような
実は少し寂しいような。
手を繋いだ時のドキドキと心臓がうるさいあの感覚は、今までの人生で味わったことがなく
新しい世界を知ることができそうな期待も正直あったから。
「俺の手に何か付いてるか?」
「え?あ、いえ、何でもないです。」
ボーッとしながら見つめてしまっていたようで
マルコさんは不思議そうに自分の手を確認していた。
まさか、繋いだ時のことを思い出していた、
なんて言えるわけもなく
慌てて視線を本へと戻す。
——と
「あ、この草。」
「ん?」
「私、見たことあります。」
マルコさんも私の隣に来て
その写真を覗き込む。
「おばあちゃんが元気な頃、よく一緒に山の麓まで、食べられる野草を取りに行ってたんですけど、そこでこの草を見たことがあります。まさか薬草だったなんて。」
「この村に来たとき、使えそうな薬草を探しに一通り見たつもりだったが、俺は見つけられなかったよい。ミドリちゃんは目が良いんだな。」
確かにすごく小さな草だった。
でも、特徴的な葉の形をしていたから
よく覚えている。
今も、きっと生えてるはず。
これを取ってくれば
マルコさんの役に立てるかな。
マルコさんは喜んでくれるかな。