第三章 〜彼の手とヤキモチ〜
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往診が終わる頃
陽が暮れ始め、村はオレンジに染まりつつあった。
マルコさんに帰っていいと言われたけど
私は洗濯物を干しっぱなしだったことを思い出して
一緒に診療所へ戻ることにした。
「洗濯をしまうくらい俺にもできる。」
「前にマルコさんにお願いしたら、シーツも白衣もシワだらけだったから。」
「使ってれば気にならなくなるんだよい。」
斜め前を歩くマルコさんが
振り返って笑った。
その笑顔が夕陽に照らされる。
独り占めしたい。
なんだか無性にそう思えて
気付いたら手を伸ばして
その大きな手を掴んでいた。
「……!」
マルコさんは声には出さないけど
驚いていた。
でも離されることはなく
優しく握り返してくれた。
そのまま診療所への帰路を歩く。
繋いだ手からマルコさんの体温が伝わってくる。
やっぱりドキドキする。
でも初めて手を繋いだときとは違い
そのドキドキがなんとなく心地よく感じてきていた。
少しの沈黙を私が破る。
「私、次からお弁当作ってきます。マルコさんのお昼ご飯。」
「……それは助かるよい。」
「だから、その……こんなこと、私が言うのはおかしいですけど……」
「ん?」
知らなかった。
「もう私以外の子から、お弁当を受け取らないでほしいです。」
自分がこんなにも独占欲の強い女だったなんて。
「嘘の恋人でも、ヤキモチくらい妬きます。」
マルコさんは驚いたようにこちらを見た。
一瞬目が合ったけど
私はすぐに下を向いてしまった。
恥ずかしすぎる。
でも、正直な私の気持ちだ。
変な女だと思われてることだろう。
でもでも、嫌なものは嫌なんだ。仕方ない。
顔を上げられないでいると
繋がれた手が強く握り直された。
「あまり可愛いこと言ってくれるな。」
可愛い、という言葉に
今度は私が驚いてマルコさんを見上げる。
「勘違いしそうになる。」
繋いでいない方の手の甲を鼻に当てて
照れたように目を逸らしながらマルコさんはそう言った。
深い意味はわからない。
ただ顔が熱くなって
何も言えなくなった。
それからは2人とも何も喋らず
繋がれた手はそのままに、夕陽に包まれながら
診療所までの道を歩いた。
〜第四章へ続く〜