第二章 〜交換条件と嘘のはじまり〜
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「おお。こりゃすげェ。」
掃除に夢中になっている間に
マルコさんは往診に行き
帰ってくる頃には掃除と室内の片付けはあらかた終わり
私は乾いた洗濯物を畳んでいるところだった。
「おかえりなさい。すみません、勝手にいろいろ片付けちゃいました。」
「いや、助かるよい。」
マルコさんは片付いた診療所を見回して
嬉しそうに笑ってくれた。
頑張った甲斐があったと、私も嬉しくなる。
「煎餅もらってきたんだ。食べていってくれよい。」
「ありがとうございます。お茶煎れますね。」
「何から何まで悪いな。」
診療室の奥にはマルコさんが暮らしている部屋がある。
そこでお煎餅とお茶を用意して
マルコさんと2人でテーブルを囲う。
なんだか流れでこうなってしまったけど
割と楽しいひとときだった。
「本当助かったよい。整理とか片付けとか性に合わなくてな。」
「いつもおばあちゃんがお世話になってるし、お役に立ててよかったです。良かったら時々掃除しに来ますよ。」
「それは有難いが、ミドリちゃんも忙しいだろうし、ばあちゃんの面倒もあるし、そこまでは甘えられねェ。今日やってもらっただけで十分だよい。」
「……あの、じゃあ…交換条件とかどうですか?」
「交換条件?」
掃除と洗濯をしている間、ずっと考えていた。
マルコさんと、本当の恋人にはなれなくても
彼に私の恋人のフリをしてもらうことはできないだろうか。
おばあちゃんに嘘を吐くのは少し心が痛むけど、安心させてあげられる。
こんな変なお願い、聞き入れてもらうのは難しそうだけど
思い切ってマルコさんに言ってみることにした。
「私、ここの診療所お手伝いします!専門的なことはわからないけど、今日みたいな片付けとか、簡単な仕事ならできるので。」
「あぁ、それは嬉しいが…」
「それで…代わりにその……私の恋人になってください!」
「恋人!?」
マルコさんは目を見開いて驚いた。
それはそうだ。
自分でも変なことを言っているのは十分わかっている。
「恋人っていうか…恋人のフリをしてもらいたいんです……」
「……何か事情がありそうだな。」
非常識で、ものすごくおかしなことを言っているのに、真摯に受け止めて話を聞こうとしてくれるマルコさんに
胸の奥がキュンと縮まった。
私は昨夜おばあちゃんに言われたこと
おばあちゃんを安心させるために恋人を紹介したいが
めぼしい人がいないことを話した。
「なるほどなァ。」
「すみません…やっぱり変ですよね、恋人のフリなんて。」
「まぁ普通に考えたらな。でも、ばあちゃんの為なんだろ?俺は良いと思うけどな。」
「本当?」
「ただ…相手がこんなオッサンでいいのかよい?」
マルコさんは頬を掻きながら
困ったように笑った。
「他に頼める人がいなくて……それに、マルコさんはおばあちゃんのお気に入りだし。」
「わかった。その嘘、付き合うよい。」
「本当に?いいんですか?」
「ばあちゃんとミドリちゃんのためだ。それに、確かにここの仕事を手伝ってもらえると俺も助かるからな。」
「頑張ります!ありがとうございます!」
こうして、マルコさんとの嘘の交際が始まった。