気づかれないように
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その日を境に、ミドリちゃんからの
視線を感じるようになった。
最初は気のせいだと思うようにしていた。
勘違いだ、浮かれるな、自惚れるな、と
自分に言い聞かせて。
でも、意識すればするほど、仕込み中や食事中
船の上で過ごす何気ないひと時に視線を感じる。
その視線に目を合わせようとすれば
焦って目線を逸らす彼女に
おれの憶測は徐々に確信へと変わっていった。
いっそもう、この気持ちを伝えてしまおうか。
そう、考え始めたときだった。
夕食の仕込み中
珍しく君の方からおれの所へ来てくれた。
目の前のカウンターに腰掛けて
おれが淹れたミルクティーをうまそうに飲んでくれる。
調理に集中しながらも、やはり視線を感じた。
しかも、こんな真正面から見られることなんて
滅多にないから
「そんなに見つめられたら、いくらおれでも照れるって。」
照れ隠しに笑顔を作って、そう言った。
あからさまに慌て始めるミドリちゃんが
可愛くて
どんな反応をするのか知りたくて
「そんなにおれが好き?」
つい意地悪な言い方をしてしまった。
逃げ出したミドリちゃんを探しながら
口元が緩むのを必死で堪えた。
思った通り、自惚れなんかじゃなかった。
あとは、おれの気持ちを伝えるだけだ。
多少強引だったかも知れない。
でも、このチャンスを逃したくない。
その小さな身体を抱き締めた。
「………すき。」
おれが言わせたようなもんだったが
恥ずかしがり屋な君がそう口にした瞬間は
天にも昇る気持ちだった。
すぐにでも
メチャクチャにしてしまいたい衝動を必死に抑え
怖がらせないように、出来るだけ優しく
口付けをした。
初めてのキスは
甘いミルクティーの味。
君は
おれが気づいてないとでも思っていたんだろうが
気付いていなかったのは、君の方だ。
いや、おれが気づかせなかった。
気づかれないように、気づかれないように。
おれは
この恋を自覚したときから
ずっと
君を見ていた。
…fin