気づかれないように
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釣り上げた魚は3mほどの大きさがあり
さっきまで私が立っていた場所で暴れているのを
ウソップやゾロ、フランキーが
逃げないようにと押さえつけていた。
ふと我に返ると、サンジ君に肩を強く抱かれ
すっぽりと腕の中に収まっていて
目の前にはサンジ君のネクタイが見え
顔を上げるとニッと笑う彼の顔。
「大丈夫か?危なかったな。」
思わず息を呑んだ。
カッコいい……
そう声に出そうになるのを、ギリギリで堪える。
体温が上昇し、一気に顔が熱くなるのを感じた。
「ミドリちゃん…?どうした?おれの顔、何か付いてる?」
やばい。
じっと見つめすぎてしまった。
「ご、ごめん、何でもない。あの…ありがとう。」
「……あァ。」
慌てて腕の中から逃れると
サンジ君は何事もなかったように私から離れた。
「気をつけろルフィ!ミドリちゃんがケガするとこだ!」
「わりィわりィ!」
私を片腕で軽々と抱き上げてしまう力強さとか
ふわっと香った煙草の香りとか
頭の上で響いた低い声とか
それからずっと頭を離れなくて
顔を合わすたびに思い出しては鼓動が速くなり
私はサンジ君への気持ちを自覚した。
——この時から、恋焦がれる毎日が始まった。
でも、人一倍恥ずかしがり屋な私は
こっそりと彼を盗み見ることしかできない。
料理をしているときの器用な手先が好き。
サラッと揺れる綺麗な金髪が好き。
煙草を吹かしながら
物思いにふけっているときの無防備な横顔が好き。
話をするときに
自然と微笑みかけてくれるところが好き。
気づかれないように、気づかれないように。
サンジ君の好きなところを探す時間が
特別だった。
一日が終わろうという夕暮れ時。
いつもならサンジ君は
夕食の準備に忙しくしている時間。
今日こそは2人の時間を作ろうと
勇気を出してキッチンへ向かった。
ドアを開けると案の定
キッチンに立つサンジ君が笑顔を向けてくれる。
「ミドリちゃん。メシまだなんだ。何か飲むか?」
本当に2人きりの空間。
それを期待して来たはずなのに
いざそうなると、一気に緊張が走る。
「あの…紅茶を飲みたくて。」
緊張のせいか、声がうわずった。
格好悪い。
「おう、今淹れるよ。」
「ごめんね?その…忙しい時間に。」
「茶ァ淹れるくらいなんでもねェよ。座ってな。」
私はカウンターに腰掛けた。
カウンターの椅子は
一味で一番背が低い私には、実は少し高い。
でも、目の前で調理する彼を堂々と見られる。
こんな特等席は他にない。
それに、今日は少しでも頑張るって決めたんだ。
「お待たせ。」
「ありがとう。いただきます。」
私の好みの、甘めのミルクティーが出された。
それをゆっくり味わいながら
調理を続けるサンジ君の手元に視線を向ける。
何か話さなくちゃ。
すぐに皆が来ちゃう。
焦れば焦るほど、話題は出てこないもので
考えながらも、気付けば食い入るように
サンジ君の手元を見つめてしまっていた。
リズムよく刻む包丁によって
野菜が次々と同じ大きさに整えられていく。
そのまま視線を上へと移す。
これまでに、こんなふうに真正面から顔を見られることなんてなかった。
手先に向けられた真剣な目つき。
通った鼻筋。
サンジくんが調理に夢中なのをいいことに
その整った顔立ちを見つめていた。
——と
手元に向けられていたはずのサンジ君の目線が
不意にこちらを向いて
パチっと目が合う。