渇いた心、潤うとき
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「……はぁ…」
ため息がひとつ漏れた。
今夜はパパと会うはずだった。
待ち合わせのバーでひとり飲んでいる時
仕事が終わらないから、と
パパからキャンセルのメッセージが入った。
今夜はいいホテルに泊まれると思ってたのに。
「あそこのスパ、行きたかったな…」
家に帰ろうか、とも思ったけど
なんとなくそんな気分にはなれなくて
2杯目のカクテルを頼んだ。
ここのバーでひとりで飲んでいると
大抵は男の方から声をかけてくる。
でもこの日はそれを待つことはなかった。
少し離れたカウンターで
さっきからひとり飲んでいるスーツの男が
目についていたから。
私は2杯目のカクテルを手に彼のもとへ行った。
スラリと背が高く、上下黒のスーツを着こなし
サラリと流した金髪がよく似合う。
タバコを持つ、細く長い指もセクシーに見えた。
誰かを待っているようにも見えないし
今夜はこの人でいい。
「お隣、いいですか?」
「あァ、喜んで。」
声をかけると一瞬驚いた顔をしながらも
すぐに笑顔を作って、椅子を引いてくれた。
紳士的でスマートな仕草にも好感が持てる。
「ひとりなの?」
「まァな。君も?」
「彼と待ち合わせてたんだけど、ドタキャンされちゃって。よかったら一緒にいい?」
「嬉しいな。おれでよければ。」
どちらからともなく、グラスを重ねた。
「名前を聞いていいか。」
「ミドリ。」
「ミドリちゃんか。君にピッタリな、可愛い名前だ。」
「あなたは?」
「サンジだ。」
いつも思う。
名乗ることに意味なんてあるのだろうか。
どうせ一夜限りなのに。
私の名前なんて、明日には忘れてるくせに。
「この街の人?」
「いや。この島へ来てもう1週間くらい経つが、明日にはここを出るんだ。」
「珍しい。旅の人なんだ。」
彼は静かにタバコを吸うと
フゥーっと長く煙を吐いて
「海賊だよ。」
小さな声でそう答えた。
どうやら他の人にはあまり聞かれたくないみたい。
「海賊?サンジさんが?」
意外だった。
この大海賊時代
この島にも多くの海賊が行き交っている。
皆、態度も声も大きく、喧嘩っ早くて
平気で銃や剣を持ち歩くような野蛮な人たちばかりだと思っていたから
こんな紳士的な彼が海賊だなんて
イメージとかけ離れすぎていて驚きを隠せない。
「見えないか?」
「全然見えない。」
「はは。褒め言葉として受け取っておくよ。」
サンジさんは楽しそうに笑いながら
灰皿に灰を落とした。
ラッキーだと思った。
相手は明日にはここからいなくなる人。
後腐れなくていい。
男の中には
ゆきずりの関係と割り切ってくれる人と
一度寝ただけで自分の女と勘違いしてくるような
面倒な奴もいる。
私からすれば
明日には遠くへ行ってしまう人ほど
都合の良い男はいない。
今夜の寂しさを埋めるにはちょうどいい相手。