初恋
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日も暮れてきて
辺りが見えなくなるほど吹雪が強くなる頃
雪洞が出来上がった。
穴の高さはギリギリおれが座れるくらいあり
奥行きは2mほどある。
人がひとり横になるには十分だ。
そこにミドリちゃんを座らせ
彼女の荷物を運んだ。
「じゃ、ミドリちゃんはここ使ってな。」
地面にシートを敷き
ろうそくに火を灯してそう言うと
ミドリちゃんは不安そうな顔をした。
「サンジは一緒じゃないの?」
「………」
いやいやいや。
それはさすがにまずいだろ。
「おれは隣に同じように穴を掘るよ。」
「でも今からもう一つ作るんじゃ、出来上がるまでに暗くなっちゃうし、吹雪もどんどん酷くなってくるよ。ろうそくも、1本しかないんでしょ?」
確かに、ミドリちゃんの言う通りだ。
が、この中で朝まで2人きり?
こんなに可愛らしい想い人と?
手を出さないわけがない。
「ミドリちゃん。一晩中、朝まで、ここでおれと2人きりだ。この意味わかってるのか?」
少し真剣な顔つきで
真っ直ぐに目を見てそう言った。
ミドリちゃんは一度だけ穴の中を見回すと
ニッと歯を見せて笑った。
「大丈夫だよ。この広さだし、サンジとなら横になれるよ。相手がフランキーなら無理だけど。」
おれの警告に気付くこともなく
自信満々な笑顔を向けると
「これで入口塞ぐんだよね?」と言いながら
もう一枚のレジャーシートを広げ始めたので
おれもそれに手をかける。
「……わかった。じゃあ2人で使おう。」
シートで入口を塞いで固定すると
外からの冷たい風の吹き込みがなくなり
完全な密室状態になった。
”男”という生き物をまるでわかっていないのか。
それとも、心底おれを信用してくれているのか。
どちらにしても、おれは今夜絶対に
ミドリちゃんに手を出すわけにはいかない。
仲間としての信頼を失うわけにはいかない。
「……眠れねェだろうな…」
ミドリちゃんに聞こえないよう
小さくそう呟いた。
「何か言った?」
「いや。そうだミドリちゃん、足見せて。」
「あ、うん。捻挫かな?動かさなければ大丈夫だよ。」
見ると少し赤く腫れている足首。
さすがに包帯や湿布は持っていなかったから
適当な布で固定をした。
「だいぶ楽になった。ありがとう、サンジ。」
「おう。」
今日は何度その笑顔での
”ありがとう”をもらっただろう。
その度に彼女を独り占めしているようで
こんな状況なのに浮かれている自分がいる。
意識したらいけない。
今は、邪なことは考えたらいけない。
そうはわかっていても、どうしようもないほどに
おれはやっぱり、この子が好きなんだ。
顔が熱くなったことに気付かれないように
ミドリちゃんに背を向けてタバコに火をつけた。