初恋
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ミドリちゃんを背負って
サニー号までの道を急いだ。
道と言ってもわかりやすい道なんてないし
港があるであろう方角へ向かって
ひたすら歩くしかなかった。
この方向が合っているのかもわからないが
そんなことは今のおれには重要ではなかった。
分厚いスノーウエアなのに
その柔らかさを十分に背中に感じて
首に回された腕は、ほんのりといい香りがするし
なんだか彼女に後ろから
抱き締められているようにも錯覚する。
こんなに近くにミドリちゃんを感じるのは
初めてのことだし
どう考えたって邪な気持ちが生まれてきちまう。
「ごめんね?サンジ。私のせいで……」
ふいに、申し訳なさそうに彼女がそう言い
同時に耳元に息がかかり、ゾクっとする。
急に話しかけないでくれ!と内心焦った。
それでも平静を装って
ミドリちゃんが少しでも安心できる言葉を探す。
「いや、元はと言えばルフィのせいだろ。こんな天気の中、何が冒険だってんだ。」
「ルフィだから仕方ないよ。」
ふふっと笑うその息遣いに
彼女にバレないよう、目を瞑って耐えた。
「……ごめん。重いよね。ちょっと休む?」
「いや、軽いよ。天使の羽でも生えてるのか?」
「ふふ、またそうやって。」
そっちこそ、またそうやって
耳元で笑うのはやめてくれ。
本当に女性っていうのは、それだけで罪深い。
可愛さ、弱々しさ、柔らかさ
その全てがおれたち男には想像できないほどで
ミドリちゃんの全てを今はおれが支えている。
ミドリちゃんの全てが
完全におれに密着している。
それだけで……それ以上は言えねェが
とにかくまずい。
ミドリちゃんに嫌われちまいそうな
野蛮な想像ばかりが頭に浮かんで
身体が熱くなってきそうになって
仕方なくマリモのツラを思い浮かべた。
不本意ではあったが…
そうしたことで身体の熱が少し引いてきた。
早くサニー号に着かねェかな。
「吹雪いてきたね……」
ミドリちゃんの可愛い声が飛び込んできて
マリモの顔は一瞬で頭から消えた。
立ち止まって辺りを見回す。
そういや確かに
風も一層強くなり、雪が空気中に舞っていた。
時間を確認する術がないが、きっと夕刻も近い。
「まいったな……」
「港もまだまだ遠そうだね。」
不安な声色の彼女を一度地面に座らせる。
前に付けていたリュックを下ろし
同時に脱いだ上着をミドリちゃんの肩に掛けた。
「サンジ?」
「少し待っててな。」
リュックから折りたたみ式のスコップを取り出す。
ウソップから「雪山だぞ!念の為だ!」と
持たされていたものだった。
「ウソップの心配性が役に立ったな。」
ザクザクと適当な斜面の雪を掘り始めると
ミドリちゃんは驚いたように声を上げた。
「何するの?」
「ビバークだ。知らないか?穴を掘って、その中で寒さを凌ぐ。」
「穴の中で……」
「この分じゃ日が暮れるまでにサニーに着けるかわからないし、吹雪が強くなる前に過ごせる場所を確保しておいた方がいい。」
「私も手伝う!」
そう言うとミドリちゃんは膝をついて移動し
おれが掻き出し溜まった雪を手で払い始めた。
「ありがとう。でも足が酷くなったら困るから、無理はしないでよ。」
「……ありがとう、サンジ。」
お礼を言ったのにお礼を返されて
思わず雪を掘る手が止まった。
「私、サンジが一緒にいてくれてよかった。」
全力の笑顔を向けられる。
本当にこの子には、まいった。
今までに恋をした女性の中に
こんな子はいなかった。
こんなにまで、おれの心をかき乱してくる子は。