肌を重ねたなら ver.s
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ナミとロビンがよく眠っているのを確認して
静かに女部屋を出る。
真っ暗な海に停泊中のサニー号の船内は
とても静まっていた。
見張り台で不寝番のブルックが起きているだけで
あとは皆、眠っているはず。
音を立てないようダイニングへ近付くと
かすかな明かりがドアの隙間からこぼれていた。
ひとつ、深呼吸をする。
ここに来た理由はただひとつ。
サンジに抱かれるためじゃない。
サンジに気持ちを伝えるため。
今まで何度、こうやって夜中に部屋を抜け出して
彼に会いに来ただろう。
これまでにないほどに、今が一番緊張している。
でも覚悟は決めた。
フラれてもいい。
もう虚しいだけの関係は終わりにする。
少し震える手で
なるべく音を立てないようドアを開けると
キッチンに立つサンジが顔を上げた。
口の端をフッと上げて笑顔を見せ
でも目元はどこか不安げで
真っ直ぐに私の目を見ようとはしない。
「来ないと思ったよ。何か飲む?」
静かにこちらに近付いてきて
手を差し出される。
その手を取るとダイニングテーブルの椅子まで
エスコートしてくれた。
こんな時までスマートに扱ってくれる。
でも私は座ることはせず
手を離し、真っ直ぐにサンジに向き直った。
「いらない。話があるの……」
サンジは離された手を見つめながら
何かを諦めたように笑って
「もう、触れさせてもらえないってことか。」
その表情に心臓がぎゅっと潰されそうなほど
胸を締め付けられた。
「好きなの。」
今度はちゃんと言葉を選ぼうと思ったけど
やっぱりそんな余裕は私にはなくて
唐突なその言葉に
サンジはポカンと口を開いている。
好き。
ずっと言えないでいた言葉なのに
一度口にしてしまえば
歯止めがきかなくなったように言葉が溢れてきた。
「私、サンジが好きなの。もう、体だけの関係は嫌なの……サンジに触れられるたびに、惨めな気持ちになって…どんなに肌を重ねても、心が手に入るわけじゃないってわかって……このままじゃ嫌だって思うようになって……」
ポロポロと、また涙が溢れる。
うまく伝えられているかわからないけど
でも聞いて欲しい。
そんな気持ちが届いたのか
サンジは少し驚いた顔をしながらも
真剣に聞いてくれていた。
「私っ…サンジの心も、全部ほしいの……愛のないセックスは、もうしたくないっ……」
涙を拭うように指で瞼をおさえると
その手を掴んで
少し強引にサンジがキスをしてきた。
「んっ」
私は力いっぱいサンジの胸板を押して離れる。
気持ちを伝えた以上
もう、流されるわけにはいかない。
「もうしないってば。」
それでもサンジはもう一度私の手首を掴んで
離れることを許さなかった。
「愛があればいいんだろ?」
また、唇が重なる。
「んっ……ちょっ……」
チュ、チュと深く繰り返される
今までにないくらい強引なキス。
それでも私が抵抗を続けると
今度は強く抱き締められる。
「おれは、ずるい男だ。」
耳元でサンジが呟いた。
「ミドリちゃんが断らないのをいいことに、何度も君を抱いた。おれの気持ちを伝えたら、重荷に思われて、もう抱かせてもらえないと思ったから。身体だけの関係と割り切れば、君に触れられたから。」
「……サンジ、それって……」
「愛なしに君を抱いたことなんて、一度もない。」
身体を離したサンジが
体をかがめて、真っ直ぐに視線を合わせてくる。
「おれも君が好きだよ。ミドリちゃん。」
奇跡が起こった。
「おれには最初から愛があった。」
頬に両手を添えられて
額と額が重なった。
笑顔のサンジとは裏腹に
私の瞳からはまた涙が溢れた。
サンジには愛があった。
私、ちゃんと感じていたかも。
サンジはいつもすごく優しかったから。
私の名前を呼ぶ声も
触れる指先も
抱き締める腕も
涙が出そうなほど、彼の全部がいつも優しかった。
「伝えるのが遅くなってごめんな。」
優しい温もりの中で、もう一度涙を流した。
「愛してるよ。」
「うん、私も。」
肌を重ねることで、愛されてるって錯覚してた。
でも、錯覚じゃなかった。
肌を重ねることで
ちゃんと愛を育んでいたんだね。
…fin