ただの仲間のフリはもうしねェ
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ドキっとした。
やっぱり来なきゃよかった、と少し思った。
ゾロから感じられる空気が
昨日私が寝たフリをしていたときのそれと
同じに感じたから。
「こっち向け。」
もう逃げられない。
意を決して振り返り、ゾロを見た。
ゾロも真っ直ぐに、私を見ていた。
「渡すもんがある。」
おもむろにポケットに手を入れたかと思うと
何かを取り出して見せる。
ゾロの大きな掌に
小さなシルバーの指輪が乗っていた。
「……これ…」
「昨日、船で話してたろ。」
——この国では特別な相手に指輪を贈ったり
恋人同士で同じ指輪を薬指にはめる
風習があるんですって
「私に?」
「こんなもんで縛り付けたくねェけどな…他に思いつかねェし。」
ゾロは私の左手を取ると
薬指にするりとそれをはめた。
「これなら、おれはただの仲間から抜け出せるだろ。」
何の装飾もない、シンプルなシルバーリングは
繊細に削られていて、綺麗な丸みを帯びていた。
驚くほど私の指にピッタリなそれに
目を奪われていると
ゾロが覗き込むように、視線を合わせてきた。
「おれにとって、ずっとお前は特別だった。」
今度はゾロの瞳から
目が逸らせない。
「ただの仲間のフリはもうしねェ。だからお前も、もう何も気付いてないフリはやめろ。」
大きな手に両手を包まれ
ゾロはそれを引き寄せて額を当てた。
「おれをお前の特別にしてくれ。」
懇願するようにも見えるその姿からは
まるで大切なものを包むかのような
優しい温もりも伝わってきて
なんだか涙が出そうだった。
今まで通り、仲のいい仲間でいたい。
今で十分楽しくて幸せなのに
深い関係になって、もしもこの幸せが
壊れてしまったらと思うと怖い。
そんな私の悩みなんてちっぽけに思えてくるほど
ゾロからの大きくて暖かい気持ちが伝わってきた。
「…気付かないフリ……しててごめん。」
こんなに真っ直ぐに伝えられてしまったら
私も真っ直ぐに向き合うしかないじゃない。
「私もゾロが好き。」
顔を上げたゾロが
嬉しそうな笑みを浮かべていて
「やっと認めたな。」
そう言いながら
またポケットから何かを取り出した。
「これ、おれはいらねェって言ったんだけどよ。」
それは私にくれたものと同じ
何の装飾もない、シンプルで綺麗なリング。
でも、私のものより二回りほど大きくて太い。
「記念だから、って買わされた。」
私はそれを手に取って
ゾロの左手薬指にそっとはめた。
太くて長い指に大きなリングがよく似合う。
私の左手と、ゾロの左手。
並べて眺めて、笑みが溢れた。
「……まァ、悪くねェな。」
「そうだね。悪くない。」
笑顔を向けると、ゾロも口の端を上げる。
そのままゆっくりと
どちらからともなく顔と顔が近付いて
唇と唇が重なった。
「ねぇ、どうして指のサイズわかったの?」
「あ?適当だ。小せェ女だって言ったら、このくらいだろうって店員が。」
「店員さん、すごいね!」
サニー号への帰路。
右手を握られれば、ゾロの指の中に
一箇所だけ硬い指輪の感触。
左手を見れば、夕陽に照らされた
ゾロからの贈り物がキラリと光る。
本当、ゾロの言う通り。
大事な仲間の関係を飛び越えて
特別な2人になるのも、きっと悪くない。
…fin