愛すべき人
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「聞こえなかったのかよ。」
「わかった、渡す。渡すから、すぐに出て行って。」
恥ずかしい。
ルフィさんの前で、お金を要求されるなんて。
「これっぽっちかよ。」
「今それしか持ってないの。後でまた渡すから。」
「チッ。」
彼はひとつ舌打ちをして
渡されたお金をポケットにしまい店を出て行った。
「知り合いか?今の。」
あぁ、楽しかった時間がぶち壊し。
ルフィさんもさすがに気になったようだ。
「あ、うん、あの…恋人なの。
私、家族がいなくて、彼と暮らしてる。」
「ふーん。」
金をせびるような、最低な男と付き合ってるのかと
幻滅させてしまったかも。
ルフィさんは納得いっていないようで
眉間に皺を寄せたまま、でもそれ以上は何も言わず
残り少なかった食事を一気に平らげた。
「ごちそうさまでした!」
「じゃあ、また。
仲間の皆さん、早く見つかるといいですね。」
「あァ。」
入口までルフィさんを見送りに行く。
ドアを出て、歩き出そうとしたルフィさんは
踵を返して私の方へ振り返った。
「ミドリ。」
見たことのない真剣な顔。
真っ直ぐに見つめられて
目を逸らすことができない。
「な、何ですか?」
「お前、今あいつといて幸せか?」
……ドキッとした。
「……し、幸せです。好き…だから…」
「……ならいいけどよ。」
麦わら帽子を深く被り直して
ルフィさんは去って行った。
嘘を吐いてしまった。
だって幸せなフリくらいしないと
自分が惨めで惨めで耐えられない。
正直に、幸せじゃない、なんて言ったら
じゃあなんで一緒にいるんだって
核心に迫られるのが怖かった。
このままじゃいけないとわかっているのに
ここから抜け出す勇気もない。
ルフィさんの真っ直ぐさは、私には眩しすぎて
手を伸ばすことができない。
泣き出しそうになるのを必死に堪え
その場に立ち尽くしていた。