愛すべき人
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「うめェ!お前ここで働いてんのか!」
「はい。ミドリって言います。」
「おれはルフィ。海賊だ。」
「海賊!?」
そうか。見たことあると思ったら
街に貼られている手配書で見たことがあったんだ。
ということは、この人は犯罪者。
「どれもこれもうめェ!ありがとうな!ミドリ!」
食事を次々に頬張る姿がなんとも美味しそうで
私も自然と口角が上がる。
犯罪者だなんて……そんな悪い人には見えない。
「昨日この島に着いたんだけどよ
仲間と逸れちまった。でけェ島だな!ここは。」
「この島には栄えた街がいくつもあるし
どこも広いから、一度逸れてしまうと
見つけるのは少し大変かもしれません。
船を停めた海岸がわかれば良いんだけど…」
「停める前にひとりで降りちまったから
わからねェんだ。」
仕方ねェよな!と言いながら
他人事のように笑う彼がなんだかおかしくて
一緒になって笑ってしまった。
思えば、こんなふうに心の底から笑ったのも
”ありがとう”を言われたのもすごく久しぶりだ。
海賊だけど、犯罪者だけど
ルフィさんはすごく好感の持てる人だった。
「すみません。仲間の皆さんを探すのを
お手伝いできたら良かったんですけど…
まだ仕事が残ってて。」
「気にすんな!
メシ食わしてもらっただけで十分だ!」
「あの、私昼間はいつもここで働いてるので
何かあったら来てください。またご馳走します。」
「いいのか?ありがとうな!」
笑顔で手を振りながら
ルフィさんはすぐに見えなくなった。
楽しい時間から、現実に戻された気分で
夜の仕事場へと向かう。
昼間はレストランでウエイトレスとして働き
夜は繁華街のクラブで男の人の相手をする。
私の毎日はその繰り返しだった。
もともとはウエイトレスだけだったけど
彼と一緒に暮らしているうちに
もっと稼いでくるよう言われ、夜の仕事も始めた。
全ては彼のためだった。
「ミドリちゃん。たまには外でどうだ?」
「すみません、お店の外ではちょっと…」
苦手だった男の人の相手も
「きゃっ!やめてください!」
「いいだろ、少し触るくらい。」
セクハラに耐えるのも
「うっ…気持ち悪ぅ……」
いつまでも強くならないお酒を飲むのも
彼のためだと思って頑張っているのに
「なんだ今月もこれっぽっちかよ。
最近少なくねェか?」
「ごめんなさい…」
「来月これより少なかったら、追い出すからな。」
彼から愛をもらえることはない。
私は何のためにここまで頑張っているのか
心にはいつもぽっかり穴が空いていて
むなしい毎日。
こんなの、生きているって言えるのだろうか。