第1章 私と坊やと、雨のち雨。
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五条家に売られた最初の一週間は、本当に地獄の様だった。
というのも、第一印象が悪かったようで、五条家の人間は私を追い出そうと躍起になっていた。
追い出す、なんて言い方は聞こえはいいけれどぶっちゃけ殺されかけた。
すやすやと気持ちよく寝ているところを襲われて、腹や胸にナイフを突き立てられ、半殺しにされた。
よかった、反転術式が使えて。
真っ赤に染め上げる布団を見て、クソでかため息を吐いたのはついおとといのこと。
布団を処分した私は昨日今日と、畳の上で直に寝ている。
しかもいつ襲われてもいいように、睡眠はとても浅い。
まるでサバンナで生活するシマウマみたい。
固い床で寝ているせいで、私の身体は悲鳴を上げている。
14歳にして老人くさい動きになってしまっているが、それもこれも全部五条家の人間が悪い。
欠伸をしながら私は寝間着から私服へと着替える。
私服と言っても着物だけど。
糞長い廊下を歩けば、他のお仕え様たちが私を見て舌打ちだのなんだのと歓迎してくれた。
ありがとう、熱烈なラブコール。
この日は、御三家である加茂家と禪院家へと行くことになっている。
坊やがにっこにこの笑顔でなにか言っていたけど、正直覚えてない。
なんで加茂家と禪院家に行くのかも覚えてない。
なんだっけ、坊やの壁になったから挨拶だっけ?
いや、たかが壁ごときのためにそんなことするか?
する……か。
する……のか?
ちゃんと話し聞いとけばよかった。
とりあえず、なにかしらの理由があって私と坊やは今から加茂家と禪院家へと行きます。
坊やの部屋までの道のりを歩く私の足は軽くも重くも無い。
ただ部屋から部屋までの距離が長くて、それだけが苦である。
本日2度目の欠伸をする私。
すると、廊下の奥からどたどたと騒がしい足音が聞こえてきた。
何だと思う頃には既に遅し。
私の足に衝撃が走り、尻餅をついた。
痛みに顔を歪めながら、うっすらと目を開ければ私の足には真っ白な髪の毛をした次期当主様が、引っ付き虫のようにぎゅっとしがみついている。
「榛名!!おはよう!!」
「おはよう、坊や。いきなり飛びつくのはやめてね。足折れちゃう」
「えへへ。榛名も一緒に行くんだろ?」
聞いちゃいねえ。
ふにゃりと笑う坊やは、出会ったあの日からなぜか私を気に入ってくれたようで、こうして会えば今みたいに弾丸のごとく飛びついてくる。
太ももにぐりぐりと顔を押しつける坊やの頭を撫でて、坊やを引きはがす。
少し不満そうな表情をする坊やだったけど、乱れた御召し物を直して私は小さな身体を抱き上げた。
同じ目線になれば、坊やはすぐに機嫌がよくなり私の首に腕を回す。
「坊やは甘えたさんだね」
「榛名にだけだし」
「はいはい」
「側近になってよ」
いつもこうだ。
壁でもない、世話係でもない、側近になれと坊やは言う。
坊やの一言でいつでも私は側近になれる。
が、3ヶ月間私は五条家の監視下に置かれてる。
アルバイトでいう研修期間のようなもの。
それを超えれば私は坊やの側近として働くことができるけど、正直めんどう。
ただでさえ今も面倒な状況なのに、側近になったら面倒なものがさらに面倒になる。
それを考えると億劫だし自ら面倒なことに首を突っ込みたくない。
それに次期当主とは言え、坊やは現当主ではないから、いくら彼が命令したところでその言葉に力はない。
従う必要性はどこにもないということだ。
というか、なんで私は気に入られているんだ。
謎だ。
悪い気はしないけど、常に抱っこを要求してきたり、一緒にお風呂に入りたがったりするのはいささか考えるものがある。
世話係にやってもらえ。
抱っこされている坊やは下手くそな鼻歌を歌いながら私の後ろ髪をいじっている。
何が楽しいのかわからないけど、坊やの機嫌がいいから良しとしよう。
坊やを迎えに行くために部屋に行こうとしていたけど、坊やの方から来たから、そのまま玄関へと向かう。
草履を履かせて、私もまた草履に足を通す。
手を繋いで門前に止めてある黒塗りの高級車へと乗り込んだ。
車に乗り込み、隣に座る坊やを見れば足をぶらぶらとさせていた。
私の視線に気が付いて彼は楽しそうににんまりと笑う。
天使。
かわいい。
女の子みたい。
かわいい。
癒し。
私はペンキを頭から被ったような白い髪の毛に手を伸ばして、くしゃりと撫でた。