短編集
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俺は今、猛烈に機嫌が悪い。
すれ違う奴がみんな敵に見える。
その理由は今朝の出来事。
いつものように朝食を取りに、食堂へ行った時のことだった。
「おはよう、留三郎。」
「おう、………!?!?お、おまっ、そそそそれっ!?」
いつものように挨拶を交わした椿。
だがその首筋には赤いあ、あれがっ!!
言葉にならずにそれを指差す。
いや、言葉になんかできるかよ!
「?あ、これ?そうなの、付けられちゃって…」
「だっ、誰に!?誰にやられたんだ!?」
身を乗り出して椿に問い詰める。
こいつはこんなことをされたってのに、ケロッとしてやがる。
「そんなの知らないよ。寝てる時だったから。」
「寝てる時だと!?」
くそっ!誰だ!?
椿が寝てる間に忍びこんだってのか!?
野郎…絶対に、見つけてやる!
「留三郎、朝からうるさいよ。ほら、詰まってるから早く行って。」
伊作に押され、周囲への殺気を放出させながら他の六年と一緒の席につく。
一体誰が…
学園の大半が椿を狙っていたことを考えると、まず疑わしきはこの六年。
伊作…まさかお前ってことはないよな。
仮に伊作だったとして、同室の俺が夜中に姿を眩ますこいつに気づかないなんてことはあるだろうか?
いや、考えられない。
いくら寝ていたとしても、伊作が部屋を出れば気づくはずだ。
となると…小平太。あり得る、十分に。
こいつは椿に対して一番馴れ馴れしい。
その獣みたいな行動力で本能のままに椿を襲った、なんて考えるのは容易い。
長次どうなんだ?小平太は昨夜部屋を出たか?
ん…?長次?
そうだ、小平太を操れるとしたらお前しかいない。
小平太を懐柔して悠々と部屋を抜けることは、長次には可能なはず…
お前はそんなことしないと信じていたが、その表情の裏であんなことやこんなこと…まさか考えていないよな?
どうなんだ長次!?
「留三郎、顔がうるさいぞ。顔が。」
「小平太絡むな。大方下らない妄想でもしているんだろ。」
「なっ!妄想などしていない!」
「わかったから静かにしなよ、恥ずかしい。」
くそっ、仙蔵の奴め涼しい顔してやがる。
お前も容疑者の一人なんだよ。
何かと理由をつけては椿に触れやがって。
女の扱いに慣れている風吹かせてあいつに触るな。
そして文次郎、お前だった場合問答無用でコロ━━━
「おわぁぁぁ!?」
突然目の前に現れた椿の顔に、思わず後ろへ飛び退く。
「留三郎、食べ終わったなら譲ってあげてね。まだ座れてない子いるんだから。」
椿は空になった俺の御膳を片付ける。
「お、おう。すまなかった…」
「留三郎行くよ。」
伊作に引っ張られ食堂を後にする。
椿と目が合うとあいつは、いってらっしゃいって言って笑った。
……調子が狂う。
とまあ、そんなことがあって今日の俺は機嫌が悪い。
だいたい俺だってまだ……あいつに……そういうことをしていないんだ。
一体犯人は誰なんだ!?
「なんか今日の食満先輩怖くない?」
「そうだよね、いつも以上だよ。」
「お前たちもそう思うか?」
「はにゃ?富松先輩。」
「俺には食満先輩が、火を吹いて忍術学園を壊して回る姿が目に浮かぶんだ。ああ……」
「まさか……あ、椿さんだ。」
用具委員会の仕事をしていると椿がやってきた。
相変わらず首にあれを付けたままだ。
嫌でも目につく。
「留三郎、委員会中ごめんね。ちょっといい?」
「あ?何だ?」
「うん、ちょっと。ねぇみんな、留三郎借りて行っていいかな?」
椿の問いに作兵衛としんべぇが、どうぞどうぞと答える。
お前たち、なんか俺を追い出したがってないか?
「ねぇ椿さん、それ…」
喜三太が椿の首を指差して言う。
それに気づいた椿が手で隠しながら恥ずかしそうに笑う。
喜三太、頼むからそれに触れるな。
「痒そうだねぇ。僕もよく刺されるよ。」
おい………ん?
「そうなの。さっき薬貰ったんだけどね、ここ襟に当たって痒くてね。」
………………………
「わぁ、大変だねぇ。」
だから………は?………何だって?
「じゃあみんな、ちょっと借りてくね。留三郎行くよ。」
「お、おい!?」
「いってらっしゃーい!」
後輩たちに手を振られ、俺は椿に引っ張られて連行された。
校舎裏の人気のないところまで来ると、椿は少し怒ったような顔で俺に向き直る。
「留三郎、何か怒ってる?今朝から変だよ?」
それを椿に言われるのか?というか、言わなきゃいけないのか?
情けねぇ……
「お、お前の……その、だから……」
「私?私の何?」
椿がぐいっと詰め寄る。
責めるようなその目に、俺は覚悟を決めた。
「ねぇなんなのよ?」
「……あーもう!!だから、お前の首に付いたそれが、誰かに付けられたものだと気になってだなあ!!」
椿は驚いた顔をしたあと、急に笑い出す。
まぁ、当然そうなるわな。
「これ?これは虫に刺されたんだよ、寝てる間に。なんだ、これ気になってたの?」
「なんだとは、なんだ!?俺は…!」
「ふふ、心配してくれたんだ?」
図星をつかれ顔が熱くなる。
「あのね、実を言うと少し不安だったんだ。」
「?」
「留三郎ってさ、その…あまり言ってくれないから。なに考えてるのかなって思って。」
それは…まあ、そうかもな。
俺は小平太みたいに直球にものを言えないし、仙蔵みたいに褒めたりできない。
だってそんなの、口にするのはやはり…照れるだろ。
「でもちゃんと、私のこと見ててくれたんだね。」
椿が顔を赤らめて笑う。
その顔は反則だ。
「俺はあまりそういうこと言えないから…」
「うん。」
言葉に出して伝えるのは難しい。
椿はそれを望んでいるのに。
だから俺は、こいつの小さな体を腕の中に閉じ込める。
「こうする方が、お前に伝えやすい。」
胸の音がうるさい。
椿を前にすると、どうも体の制御が効かなくなる。
椿が俺の背に手を回す。
それだけで気持ちが通じ合う気がするから不思議だな。
「ふふ、留三郎好き。」
「……おう。」
俺はこいつに調子を狂わされてばっかりだ。
「でもね、何で虫に刺されたことで留三郎が怒るの?心配してくれたのはわかるけど。」
……は?何て言った?
こいつまさか、わかってないのか!?
椿から体を離してその顔を窺う。
キョトンとして今の言葉が空耳ではないことを証明している。
「椿、それが意味すること…わからないのか?」
「え?んー……うん。」
こいつ本当に十七か!?
あ、いや少し世間とはズレたところがあるから仕方ないのかもしれないが……俺にそれを聞くか!?
いや違う、他の奴に聞こうものなら、何されるかわかったもんじゃない!
だけど、言えるわけねぇだろ!
「そ、それは……追々教えてやる……」
「え、今はダメなの?」
「今!?だっ、ダメだ!いいか、他の奴にも聞くんじゃないぞ!?」
「んー、わかった。留三郎がそう言うなら、そうする。」
よし、その言葉を聞いて少し安心する。
まったく、なんて危なっかしいんだ。
俺が少しずつお前と一緒に前に進むから、それまで待ってろ。
「お前は俺についてくればいいんだよ。」
椿の頭を撫でる。
お前はそうやって、俺の腕の中で幸せそうに笑っていればいい。
草葉の影から。
「……なんだ、終わりか?」
「みんな覗きだなんて、趣味悪いよ。」
「楽しそうについてきたくせに何を言う。」
「ふん!下らん。何故俺まで……」
「なぁなぁ、あそこはやっぱりちゅーすべきだったんじゃないか?」
「そうだな……私ならそうする。」
「せ、仙蔵お前……」
「モソ……すべきだ。」
「長次!?お前まで!?」
「そうだよね。だけどもしかして、留三郎に僕たちのことバレてる……ってことない?」
「もしそうなら……まずいな。」
「本当に忍術学園壊れるんじゃないか?」
「よし、頼んだぞ文次郎。」
「なんで俺が!?」
「頼りにしてるよ文次郎。保健委員総出で迎えるから。」
「おい、人の話を聞け!怪我すること前提なのか!」
「モソモソ…」
「ん?なんだ?長次。」
「モソ……椿に付いてたあれ……本当に虫刺されだと思っているのか?」
「虫刺され……だろ?伊作。」
「いや、僕が見たわけじゃないから……え……い、いやだなぁ長次。」
「………」
「……ちょ…じ…?」
「……ふっ」
「(な、何故笑う!?)」
「(怖い!それ怖い!)」
「………」
し………ん………
「モソ……冗談だ。」
「(お前が言うと冗談に聞こえないんだよ!)」
「(学園が壊れるどころじゃなくなるんだよ!)」
「(死人が出るとこだった…)」
「はは、長次面白いなぁ!」
「面白くないわ!!」
━ちうパニック 完━
すれ違う奴がみんな敵に見える。
その理由は今朝の出来事。
いつものように朝食を取りに、食堂へ行った時のことだった。
「おはよう、留三郎。」
「おう、………!?!?お、おまっ、そそそそれっ!?」
いつものように挨拶を交わした椿。
だがその首筋には赤いあ、あれがっ!!
言葉にならずにそれを指差す。
いや、言葉になんかできるかよ!
「?あ、これ?そうなの、付けられちゃって…」
「だっ、誰に!?誰にやられたんだ!?」
身を乗り出して椿に問い詰める。
こいつはこんなことをされたってのに、ケロッとしてやがる。
「そんなの知らないよ。寝てる時だったから。」
「寝てる時だと!?」
くそっ!誰だ!?
椿が寝てる間に忍びこんだってのか!?
野郎…絶対に、見つけてやる!
「留三郎、朝からうるさいよ。ほら、詰まってるから早く行って。」
伊作に押され、周囲への殺気を放出させながら他の六年と一緒の席につく。
一体誰が…
学園の大半が椿を狙っていたことを考えると、まず疑わしきはこの六年。
伊作…まさかお前ってことはないよな。
仮に伊作だったとして、同室の俺が夜中に姿を眩ますこいつに気づかないなんてことはあるだろうか?
いや、考えられない。
いくら寝ていたとしても、伊作が部屋を出れば気づくはずだ。
となると…小平太。あり得る、十分に。
こいつは椿に対して一番馴れ馴れしい。
その獣みたいな行動力で本能のままに椿を襲った、なんて考えるのは容易い。
長次どうなんだ?小平太は昨夜部屋を出たか?
ん…?長次?
そうだ、小平太を操れるとしたらお前しかいない。
小平太を懐柔して悠々と部屋を抜けることは、長次には可能なはず…
お前はそんなことしないと信じていたが、その表情の裏であんなことやこんなこと…まさか考えていないよな?
どうなんだ長次!?
「留三郎、顔がうるさいぞ。顔が。」
「小平太絡むな。大方下らない妄想でもしているんだろ。」
「なっ!妄想などしていない!」
「わかったから静かにしなよ、恥ずかしい。」
くそっ、仙蔵の奴め涼しい顔してやがる。
お前も容疑者の一人なんだよ。
何かと理由をつけては椿に触れやがって。
女の扱いに慣れている風吹かせてあいつに触るな。
そして文次郎、お前だった場合問答無用でコロ━━━
「おわぁぁぁ!?」
突然目の前に現れた椿の顔に、思わず後ろへ飛び退く。
「留三郎、食べ終わったなら譲ってあげてね。まだ座れてない子いるんだから。」
椿は空になった俺の御膳を片付ける。
「お、おう。すまなかった…」
「留三郎行くよ。」
伊作に引っ張られ食堂を後にする。
椿と目が合うとあいつは、いってらっしゃいって言って笑った。
……調子が狂う。
とまあ、そんなことがあって今日の俺は機嫌が悪い。
だいたい俺だってまだ……あいつに……そういうことをしていないんだ。
一体犯人は誰なんだ!?
「なんか今日の食満先輩怖くない?」
「そうだよね、いつも以上だよ。」
「お前たちもそう思うか?」
「はにゃ?富松先輩。」
「俺には食満先輩が、火を吹いて忍術学園を壊して回る姿が目に浮かぶんだ。ああ……」
「まさか……あ、椿さんだ。」
用具委員会の仕事をしていると椿がやってきた。
相変わらず首にあれを付けたままだ。
嫌でも目につく。
「留三郎、委員会中ごめんね。ちょっといい?」
「あ?何だ?」
「うん、ちょっと。ねぇみんな、留三郎借りて行っていいかな?」
椿の問いに作兵衛としんべぇが、どうぞどうぞと答える。
お前たち、なんか俺を追い出したがってないか?
「ねぇ椿さん、それ…」
喜三太が椿の首を指差して言う。
それに気づいた椿が手で隠しながら恥ずかしそうに笑う。
喜三太、頼むからそれに触れるな。
「痒そうだねぇ。僕もよく刺されるよ。」
おい………ん?
「そうなの。さっき薬貰ったんだけどね、ここ襟に当たって痒くてね。」
………………………
「わぁ、大変だねぇ。」
だから………は?………何だって?
「じゃあみんな、ちょっと借りてくね。留三郎行くよ。」
「お、おい!?」
「いってらっしゃーい!」
後輩たちに手を振られ、俺は椿に引っ張られて連行された。
校舎裏の人気のないところまで来ると、椿は少し怒ったような顔で俺に向き直る。
「留三郎、何か怒ってる?今朝から変だよ?」
それを椿に言われるのか?というか、言わなきゃいけないのか?
情けねぇ……
「お、お前の……その、だから……」
「私?私の何?」
椿がぐいっと詰め寄る。
責めるようなその目に、俺は覚悟を決めた。
「ねぇなんなのよ?」
「……あーもう!!だから、お前の首に付いたそれが、誰かに付けられたものだと気になってだなあ!!」
椿は驚いた顔をしたあと、急に笑い出す。
まぁ、当然そうなるわな。
「これ?これは虫に刺されたんだよ、寝てる間に。なんだ、これ気になってたの?」
「なんだとは、なんだ!?俺は…!」
「ふふ、心配してくれたんだ?」
図星をつかれ顔が熱くなる。
「あのね、実を言うと少し不安だったんだ。」
「?」
「留三郎ってさ、その…あまり言ってくれないから。なに考えてるのかなって思って。」
それは…まあ、そうかもな。
俺は小平太みたいに直球にものを言えないし、仙蔵みたいに褒めたりできない。
だってそんなの、口にするのはやはり…照れるだろ。
「でもちゃんと、私のこと見ててくれたんだね。」
椿が顔を赤らめて笑う。
その顔は反則だ。
「俺はあまりそういうこと言えないから…」
「うん。」
言葉に出して伝えるのは難しい。
椿はそれを望んでいるのに。
だから俺は、こいつの小さな体を腕の中に閉じ込める。
「こうする方が、お前に伝えやすい。」
胸の音がうるさい。
椿を前にすると、どうも体の制御が効かなくなる。
椿が俺の背に手を回す。
それだけで気持ちが通じ合う気がするから不思議だな。
「ふふ、留三郎好き。」
「……おう。」
俺はこいつに調子を狂わされてばっかりだ。
「でもね、何で虫に刺されたことで留三郎が怒るの?心配してくれたのはわかるけど。」
……は?何て言った?
こいつまさか、わかってないのか!?
椿から体を離してその顔を窺う。
キョトンとして今の言葉が空耳ではないことを証明している。
「椿、それが意味すること…わからないのか?」
「え?んー……うん。」
こいつ本当に十七か!?
あ、いや少し世間とはズレたところがあるから仕方ないのかもしれないが……俺にそれを聞くか!?
いや違う、他の奴に聞こうものなら、何されるかわかったもんじゃない!
だけど、言えるわけねぇだろ!
「そ、それは……追々教えてやる……」
「え、今はダメなの?」
「今!?だっ、ダメだ!いいか、他の奴にも聞くんじゃないぞ!?」
「んー、わかった。留三郎がそう言うなら、そうする。」
よし、その言葉を聞いて少し安心する。
まったく、なんて危なっかしいんだ。
俺が少しずつお前と一緒に前に進むから、それまで待ってろ。
「お前は俺についてくればいいんだよ。」
椿の頭を撫でる。
お前はそうやって、俺の腕の中で幸せそうに笑っていればいい。
草葉の影から。
「……なんだ、終わりか?」
「みんな覗きだなんて、趣味悪いよ。」
「楽しそうについてきたくせに何を言う。」
「ふん!下らん。何故俺まで……」
「なぁなぁ、あそこはやっぱりちゅーすべきだったんじゃないか?」
「そうだな……私ならそうする。」
「せ、仙蔵お前……」
「モソ……すべきだ。」
「長次!?お前まで!?」
「そうだよね。だけどもしかして、留三郎に僕たちのことバレてる……ってことない?」
「もしそうなら……まずいな。」
「本当に忍術学園壊れるんじゃないか?」
「よし、頼んだぞ文次郎。」
「なんで俺が!?」
「頼りにしてるよ文次郎。保健委員総出で迎えるから。」
「おい、人の話を聞け!怪我すること前提なのか!」
「モソモソ…」
「ん?なんだ?長次。」
「モソ……椿に付いてたあれ……本当に虫刺されだと思っているのか?」
「虫刺され……だろ?伊作。」
「いや、僕が見たわけじゃないから……え……い、いやだなぁ長次。」
「………」
「……ちょ…じ…?」
「……ふっ」
「(な、何故笑う!?)」
「(怖い!それ怖い!)」
「………」
し………ん………
「モソ……冗談だ。」
「(お前が言うと冗談に聞こえないんだよ!)」
「(学園が壊れるどころじゃなくなるんだよ!)」
「(死人が出るとこだった…)」
「はは、長次面白いなぁ!」
「面白くないわ!!」
━ちうパニック 完━
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