僕と×××(黒木庄左ヱ門)
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いつものように忍術学園を訪れた利吉。
いつものように近況報告と帰宅を促しに山田の元へ向かっていたのに、その日はいつもとは違った。
「こんにちは、利吉さん。」
「君は…一年は組の、庄左ヱ門?」
教員用長屋の廊下で利吉を見つけて駆け寄ってきたのは、一年は組の庄左ヱ門。
このように利吉に寄ってくるなど、珍しいことだ。
しかも一人で。
「今日も山田先生のところですか?それとも椿さんですか?」
「どちらかと言われれば、どちらもかな。それがどうかしたか?」
利吉は庄左ヱ門の口から椿の名前が出たことに正直驚いた。
なぜかあまりいい気はしない。
庄左ヱ門は思案するような仕草を見せて利吉に告げる。
「山田先生はともかく、椿さんは困ります。」
「なぜ?」
「利吉さんに椿さんをデートに誘われては僕が困るのです。」
利吉は庄左ヱ門の言うことが理解できなかった。
「答えになっていない。庄左ヱ門が困る理由がわからないな。」
「ここではなんですので、山田先生のところへ行きませんか?僕も山田先生に用事がありますので。」
やや癪に障るが、このままここでその話をするというのも野暮というものである。
二人はそのまま山田の部屋へ上がり込んだ。
「なんだ、珍しい組み合わせだな。」
「ええ、ここへ来るなり絡まれましてね。」
「やだなぁ、絡んでなどいません。山田先生、少しこの場をお借りしてよろしいでしょうか?」
庄左ヱ門は山田の了承を得て利吉に向き直る。
山田も物珍しそうに二人の様子を見守った。
「…それで、何故君が困るんだ?」
「はっきり言いまして、僕は椿さんを慕っています。だから利吉さんに椿さんを誘ってもらっては困るのです。」
利吉は予想外の回答に目を見開く。
だが庄左ヱ門くらいの歳の男子ならば、年上の女性に憧れる節はあるだろう。
「それは誰しもが抱くものじゃないのか?それで私に椿さんを誘うなと言うのは無理なもの言いだな。」
山田も利吉の言うことと同意見だった。
土井に好敵手発言をしたことも、憧れからくる一種の独占欲だと思ったのだ。
「そうではありません。僕は椿さんにすでに告白をしています。僕が彼女に追い付くのを、椿さんも待っていてくれています。」
「はぁ!?」
もちろんこれはハッタリだ。
正面からぶつかっても利吉はびくりともしないだろう。
だから庄左ヱ門は土井の時のように、利吉を推し量ろうと試みた。
見るからに動揺を見せたのは山田の方だったが。
「庄左ヱ門……本当なのか?」
「はい。山田先生。」
山田は頭を抱えた。
あの庄左ヱ門が…そこまで考えていたなんて。
彼女はなんて、罪深いのだろう。
「……庄左ヱ門、私と張り合うつもりかい?」
「張り合うだなんて、僕には大それたことは言えません。」
庄左ヱ門が言ったことが事実なのか嘘なのか、利吉には正直わからなかった。
だがここまで言うのだから、その気持ちは少なくとも嘘ではない。
そうでなければ、こんなことを言う理由がない。
彼は歳の差こそあるものの、椿のことをそのように想っているのだろう。
もしも本当に彼女に想いを告げているとしたら、彼女は庄左ヱ門のことを無下にはできない。そういう女性だ。
だから庄左ヱ門の言葉を利吉は重く受け止めた。
彼は自分にとっての脅威になりうると。
「利吉さん、勝負しませんか?」
「勝負?なにで?」
「僕と利吉さんでは実力に差がありすぎます。ですから、勝負は椿さんが僕と利吉さんどちらの名前を先に呼ぶかで決めませんか?」
「面白い。なら私が勝ったら椿さんをデートに誘わせてもらう。」
「はい、いいですよ。僕が勝ったら今日のお誘いは諦めてください。」
両者の間に言い知れぬ緊張が走る。
「しかしそれなら、私たちが同時に彼女に会わなければ決まらないのでは?」
「それは…考えていませんでした。」
「あのねぇ……」
庄左ヱ門の惚けたように笑った顔に、利吉は肩をすくめる。
しかしその時、
「失礼します。……あ!」
戸を開けて顔を見せたのは椿だった。
間の良すぎる彼女の出現に、利吉は口をつぐむ。
椿はこちらに視線を向けて何かを発見したかのように驚きの表情を見せる。
彼女が次に出す言葉を待った。
注目が注がれるのはその口元。
「り」か「し」か、どちらだ。
「庄左ヱ門君見つけた!」
椿は思い切り庄左ヱ門を指差して、その名を呼んだ。
「って、利吉さん、いらしてたんですか。」
利吉の前で大声を上げたことに恥じらいを感じたのか、彼女ははにかんで見せた。
庄左ヱ門はその様子に勝ち誇った顔をした。
「利吉さん、僕の勝ちです。今日は諦めてくださいね。山田先生、失礼致しました。椿さん、行きましょう。」
「え、あ…うん。」
椿は庄左ヱ門に促され、その場を去ろうとする。
利吉は自分の名ではなかったことに落胆しつつも、それを表には出さず彼女に問いかける。
「……椿さん、なぜ庄左ヱ門を?」
せめて敗因を知りたかった。
今日のデートは諦めるにしても、まだ彼女自身を諦めたくはなかった。
「えと、今一年は組の子たちとかくれんぼをしていて……庄左ヱ門君が最後だったので…」
その回答に呆気にとられる。
「……はぁ……かくれんぼ……?」
「やだ、お恥ずかしいです…」
ではまた、と言って椿は庄左ヱ門の後を追った。
山田が声を出して笑う。
「やられたなぁ、利吉。」
つまり最初から仕組まれていたのだ。
山田に用事があると言ったのも、ここに隠れさせてくれということだったわけだ。
庄左ヱ門は山田に確かに言っていた、この場を借りて良いかと。
利吉に勝負を持ちかけたのも、椿が探しにくる計算があったからこそだ。
惚けたように笑っていたのも、それを知られないための偽装に過ぎない。
あたかも公平であるかのような装い、十歳の子供にそれができてしまったのだ。
「…父上、彼は恐ろしいですね。」
「ああ、少し向かう方向が違っている気もするが…」
このまま忍術学園で学び続ければ、庄左ヱ門は将来優秀な忍になるであろう。
ただ椿への想いに己を見失わなければ良いが……
山田の受難は続きそうだ。
「庄左ヱ門君、利吉さんと何かお話ししてたの?」
椿は追い付いた庄左ヱ門に問いかける。
庄左ヱ門は年相応の笑顔を彼女に向ける。
「何でもありません。ただ、椿さんをお守りしただけです。」
「?」
「みんなのところに戻りましょう。」
庄左ヱ門は椿の手を引いて歩き出した。
━こうでもしないと、あなたはすぐに誰かのものになってしまいそうだから。
これが僕の戦い方、だけどどうか許してください。
それだけ、あなたに夢中なのですから。━
いつものように近況報告と帰宅を促しに山田の元へ向かっていたのに、その日はいつもとは違った。
「こんにちは、利吉さん。」
「君は…一年は組の、庄左ヱ門?」
教員用長屋の廊下で利吉を見つけて駆け寄ってきたのは、一年は組の庄左ヱ門。
このように利吉に寄ってくるなど、珍しいことだ。
しかも一人で。
「今日も山田先生のところですか?それとも椿さんですか?」
「どちらかと言われれば、どちらもかな。それがどうかしたか?」
利吉は庄左ヱ門の口から椿の名前が出たことに正直驚いた。
なぜかあまりいい気はしない。
庄左ヱ門は思案するような仕草を見せて利吉に告げる。
「山田先生はともかく、椿さんは困ります。」
「なぜ?」
「利吉さんに椿さんをデートに誘われては僕が困るのです。」
利吉は庄左ヱ門の言うことが理解できなかった。
「答えになっていない。庄左ヱ門が困る理由がわからないな。」
「ここではなんですので、山田先生のところへ行きませんか?僕も山田先生に用事がありますので。」
やや癪に障るが、このままここでその話をするというのも野暮というものである。
二人はそのまま山田の部屋へ上がり込んだ。
「なんだ、珍しい組み合わせだな。」
「ええ、ここへ来るなり絡まれましてね。」
「やだなぁ、絡んでなどいません。山田先生、少しこの場をお借りしてよろしいでしょうか?」
庄左ヱ門は山田の了承を得て利吉に向き直る。
山田も物珍しそうに二人の様子を見守った。
「…それで、何故君が困るんだ?」
「はっきり言いまして、僕は椿さんを慕っています。だから利吉さんに椿さんを誘ってもらっては困るのです。」
利吉は予想外の回答に目を見開く。
だが庄左ヱ門くらいの歳の男子ならば、年上の女性に憧れる節はあるだろう。
「それは誰しもが抱くものじゃないのか?それで私に椿さんを誘うなと言うのは無理なもの言いだな。」
山田も利吉の言うことと同意見だった。
土井に好敵手発言をしたことも、憧れからくる一種の独占欲だと思ったのだ。
「そうではありません。僕は椿さんにすでに告白をしています。僕が彼女に追い付くのを、椿さんも待っていてくれています。」
「はぁ!?」
もちろんこれはハッタリだ。
正面からぶつかっても利吉はびくりともしないだろう。
だから庄左ヱ門は土井の時のように、利吉を推し量ろうと試みた。
見るからに動揺を見せたのは山田の方だったが。
「庄左ヱ門……本当なのか?」
「はい。山田先生。」
山田は頭を抱えた。
あの庄左ヱ門が…そこまで考えていたなんて。
彼女はなんて、罪深いのだろう。
「……庄左ヱ門、私と張り合うつもりかい?」
「張り合うだなんて、僕には大それたことは言えません。」
庄左ヱ門が言ったことが事実なのか嘘なのか、利吉には正直わからなかった。
だがここまで言うのだから、その気持ちは少なくとも嘘ではない。
そうでなければ、こんなことを言う理由がない。
彼は歳の差こそあるものの、椿のことをそのように想っているのだろう。
もしも本当に彼女に想いを告げているとしたら、彼女は庄左ヱ門のことを無下にはできない。そういう女性だ。
だから庄左ヱ門の言葉を利吉は重く受け止めた。
彼は自分にとっての脅威になりうると。
「利吉さん、勝負しませんか?」
「勝負?なにで?」
「僕と利吉さんでは実力に差がありすぎます。ですから、勝負は椿さんが僕と利吉さんどちらの名前を先に呼ぶかで決めませんか?」
「面白い。なら私が勝ったら椿さんをデートに誘わせてもらう。」
「はい、いいですよ。僕が勝ったら今日のお誘いは諦めてください。」
両者の間に言い知れぬ緊張が走る。
「しかしそれなら、私たちが同時に彼女に会わなければ決まらないのでは?」
「それは…考えていませんでした。」
「あのねぇ……」
庄左ヱ門の惚けたように笑った顔に、利吉は肩をすくめる。
しかしその時、
「失礼します。……あ!」
戸を開けて顔を見せたのは椿だった。
間の良すぎる彼女の出現に、利吉は口をつぐむ。
椿はこちらに視線を向けて何かを発見したかのように驚きの表情を見せる。
彼女が次に出す言葉を待った。
注目が注がれるのはその口元。
「り」か「し」か、どちらだ。
「庄左ヱ門君見つけた!」
椿は思い切り庄左ヱ門を指差して、その名を呼んだ。
「って、利吉さん、いらしてたんですか。」
利吉の前で大声を上げたことに恥じらいを感じたのか、彼女ははにかんで見せた。
庄左ヱ門はその様子に勝ち誇った顔をした。
「利吉さん、僕の勝ちです。今日は諦めてくださいね。山田先生、失礼致しました。椿さん、行きましょう。」
「え、あ…うん。」
椿は庄左ヱ門に促され、その場を去ろうとする。
利吉は自分の名ではなかったことに落胆しつつも、それを表には出さず彼女に問いかける。
「……椿さん、なぜ庄左ヱ門を?」
せめて敗因を知りたかった。
今日のデートは諦めるにしても、まだ彼女自身を諦めたくはなかった。
「えと、今一年は組の子たちとかくれんぼをしていて……庄左ヱ門君が最後だったので…」
その回答に呆気にとられる。
「……はぁ……かくれんぼ……?」
「やだ、お恥ずかしいです…」
ではまた、と言って椿は庄左ヱ門の後を追った。
山田が声を出して笑う。
「やられたなぁ、利吉。」
つまり最初から仕組まれていたのだ。
山田に用事があると言ったのも、ここに隠れさせてくれということだったわけだ。
庄左ヱ門は山田に確かに言っていた、この場を借りて良いかと。
利吉に勝負を持ちかけたのも、椿が探しにくる計算があったからこそだ。
惚けたように笑っていたのも、それを知られないための偽装に過ぎない。
あたかも公平であるかのような装い、十歳の子供にそれができてしまったのだ。
「…父上、彼は恐ろしいですね。」
「ああ、少し向かう方向が違っている気もするが…」
このまま忍術学園で学び続ければ、庄左ヱ門は将来優秀な忍になるであろう。
ただ椿への想いに己を見失わなければ良いが……
山田の受難は続きそうだ。
「庄左ヱ門君、利吉さんと何かお話ししてたの?」
椿は追い付いた庄左ヱ門に問いかける。
庄左ヱ門は年相応の笑顔を彼女に向ける。
「何でもありません。ただ、椿さんをお守りしただけです。」
「?」
「みんなのところに戻りましょう。」
庄左ヱ門は椿の手を引いて歩き出した。
━こうでもしないと、あなたはすぐに誰かのものになってしまいそうだから。
これが僕の戦い方、だけどどうか許してください。
それだけ、あなたに夢中なのですから。━
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